第19話 ただの門番、エルフの森で防衛戦をする(門番視点)

 深い深い森の中。

 深淵の森内部は、冬の礼拝堂のような張りつめた寒気を感じる。


 俺とサクラノは遊撃兵として、骸骨戦士ボーンウォーリアを狩りつづけていた。


 エルフたちと慣れない連携するよりは、好きに動いてモンスターの数を減らして欲しいとメメナから頼まれたので、こうして闇夜に紛れて奇襲をしかけている。


 ガシャコーン、ガシャコーン。

 俺が剣をふるうたびに骸骨が砕ける。


 メメナたち本隊の隙を狙う骸骨どもを、こうして先んじてつぶしていた。


 しかし、数にものを言わせたモンスターと戦うのは久々だなあ。


 王都の下水道で湧くモンスターはバリエーション豊富なだけなく、全滅させたと思ってもしばらく経ったらすぐに数が湧く。


 一匹いたらなんとやらか、下水道の奥に溜まっているのかもしれない。


 まあ一人で狩っていたときに比べて全然楽だが。

 俺はちょっとだけ背後をふりかえった。


 サクラノの赤眼が闇で奔る。

 カタナの斬撃音が遅れて聞こえてきた。


 かなり速く駆けているようだ。

 俺も夜目には自信があったが、サクラノ曰く普通のことらしいな。


「師匠! 骸骨戦士ボーンウォーリアを片づけ終わりました!」


 サクラノが闇から爽やかな笑みであらわれた。


 うーん、すがすがしいほどの武闘派。

 俺が教えることなんて、すぐなくなるんじゃないかなあ。


「まわりの気配は探った?」

「探りましたが……うち漏らしがありましたか?

 師匠ほど気配探知の精度が優れていないので、見逃したやもです……」


 気配探知は苦手らしい。

 一応、まだ彼女の前では師匠っぽくいられるようだ。


「死霊系モンスターは倒したあとが本番のときもある。気をつけて。ほら」


 地面に散らばった骨がカタカタとふるえはじめる。

 そして、割れた花瓶が戻っていくかのように骨は一塊になり、腕八本、足四本の骸骨になった。


「師匠! このモンスターは⁉」

「ああっ、骸骨戦士ボーンウォーリアだな!」


 俺は、骸骨を叩き割るように剣をふりおろす。

 骸骨は八本の腕と剣で防ごうとしたが、カルシウム不足だな。

 ガシャコーンと気持ちよく割れた。


「……と半端に倒し損ねた骸骨が、他の骨を継いで襲いかかってきたりするんだ」

「なるほど……っと⁉

 師匠! 新手が来ました! 足が馬のような骸骨モンスターはいったいなんでしょうか⁉」


 今度は足が馬の骨になった、骸骨があらわれた。

 俺は進行上に剣を置くようにしてふるい、ガシャコーンとやっつける。


「これも骸骨戦士ボーンウォーリアだな!」

「なるほど……! では、あの巨大骸骨はっ⁉」


 今度は、大木のような巨大骸骨があらわれる。

 散っていた仲間の骨を、束ねに束ねた骸骨だ。


 俺は巨大骸骨の足を剣でくだき、倒れてきたところを、ガシャコーンと盛大に割った。


「こいつも骸骨戦士ボーンウォーリアだ!」

「…………師匠。もしかして、骸骨戦士ボーンウォーリア以外の名前を知らない、とか」

「なっ⁉ ちゃ、ちゃんと知っているぞ!」

「しかし、さきほどからすべて同じ名前です。

 どれも同じモンスターにはみえないのですが」


 む。

 いくら俺が暫定師匠とはいえ、弟子はきちんと教えていたい。


 えーっと、たしか骸骨戦士ボーンウォーリアよりちょっと強いのが骸骨隊長ボーンキャプテン

 そして、機動力特化の骸骨速馬ボーンタロス

 それから、圧倒的な力を持つとされる骸骨巨人ボーンジャイアント


 雑魚の骸骨戦士ボーンウォーリアとちがい、骸骨速馬ボーンタロス骸骨巨人ボーンジャイアントはかなり強いらしい。

 雑魚専の俺では倒せないだろうな。


 そして骸骨たちを指揮する、骸骨王ボーンキング

 骸骨王ボーンキングがあらわれるところは死が集うとされていて、大きな村であっても一晩で壊滅させられるほどの恐ろしいモンスターだとか。


 今のところ倒した骸骨の強さに大差はないから、ぜーんぶ骸骨戦士ボーンウォーリアで間違いないはずだ。


 俺はそう説明しようとした。

 そのときだ。


「⁉」「⁉」


 周囲の空気があきらかに変わった。


 ずるり、ずるりと、布を引きずるような足音が聞こえてくる。


 そして、妙に気品のある骸骨があらわれた。

 真っ黒な双眸には蒼い炎がともり、うすよごれた王冠とマントをつけている。


「師匠! あやつは!」

「……ちょっと強そうだから骸骨隊長ボーンキャプテンだな!」


 ちゃんと他の名前を知っているぞー、とアピールしつつ。


 とりあえず、ガシャコーンとやっつけておいた。


 ううむ、さっきから雑魚い骸骨ばかりで手ごたえがないな。

 俺たちが何度もこうして奇襲していれば、骸骨の群れを指揮しているだろう親玉が姿をあらわしてもよいだろうに。


 そこで、俺はハッと気づく。


「サクラノッ! メメナたちの本隊に戻ろう!」

「え? なにゆえですか? 今親玉っぽいモンスターを――」

「モンスターの主力は俺たちを無視して、本隊を一気に攻めるつもりなんだ! 行くぞ!」


 くっ……!

 俺がどこまで力になるかわからないが、間に合ってくれ!

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