ただの門番、実は最強だと気づかない ~貴族の子弟を注意したせいで国から追放されたので、仕事の引継ぎをお願いしますね。ええ、ドラゴンや古代ゴーレムが湧いたりする、ただの下水道掃除です~
第6話 ただの門番、知らずにエリアボスを倒す
第6話 ただの門番、知らずにエリアボスを倒す
それで、だ。
俺は元サヤ……門番のお仕事にどうにかありつけた。
ボロロ村の正門で、俺は暖かな日差しを浴びながら、門番業に勤しんでいる。
まあ王都とちがい、人の往来なんてないから、つっ立っているだけだが……。
「師匠ー、暇ですー」
俺と一緒に立っていたサクラノが退屈そうにしていた。
正直な子だ。
村長が俺たちに仕事を与えるとわかるなり、彼女は素直に謝っていた。
仕事を与えられて村の一員になったことで、村長を身内判定したのかもしれない。犬では?
まあ、やることが全然なくて辛いのはわかる。
俺たちが根をあげるように、村長は門番の仕事をふった気もするが、なんであれ与えられた仕事はきちんとこなしたい。
俺には門番としてのプライドがあるのだ。
「だったらサクラノ。門番の練習でもするか?」
「どんな練習でしょうか⁉」
サクラノが瞳を輝かせて、ずずいと近づいてきた。
「そうだなー、この村に誰かが来たとしよっか。
はい、サクラノ台詞」
「えーと……。ようこそ、ボロロ村へ」
「ちがうちがう。もっと元気よく――ようこそ、ボロロ村へ!」
張りのある声が村にひびいた。
どうだ俺の華麗な門番っぷりわと目をやるが、サクラノはきょとん顔。
むっ、反応がうすい。
仕方ないもう一度お披露目してあげよう。
「――ようこそ、ボロロ村へ! っとこんな風に案内するわけだな」
「師匠ー、他になにかありませんかー?」
興味すら持ってくれないなあ。
「……他はそうだな。道を尋ねられたときのために、村の地理を覚えるとか」
「小さな村ですし、もう覚えました」
「嫌なことがあっても、笑顔で受けながす方法とか」
「それで、強くなれるのですか?」
サクラノは怪訝な表情でいる。
門番の仕事に強くなれる秘訣があると思っているのだろうか。
ないぞ。門番の仕事にそんなものは。
まあ彼女を手伝うと決めた手前、ためになりそうな門番スキルを教えるか。
正直、あまり役に立つとは思えんが。
「うーん……不審者に気づく方法とか、どうだ?」
「っ⁉ それはなんでしょうか!」
サクラノが食いついてきた。
「不審者は、他の通行人とちがって、なにか目的のある動き方をしているんだ。
スリであれば獲物を物色している視線だとかで、あきらかに道を急いでいない。案外わかりやすい動きをしているものなんだよ。
そんな風に通行人を観察することで、洞察力が磨かれるぞ」
「でも、今は、村に誰も来ませんね」
「…………あとは、怪しい気配の探り方とか」
「気配を探るのはわたしも得意ですが、怪しい気配とは具体的ですね。
もしや、師匠ならではの探り方があるのでしょうか⁉」
期待値高いなあ……。
「え、えーっとさ……。その、自分をまず、青空に見立てるだろ?」
「青空ですか? わかりました!」
「ほら、感覚が研ぎ澄まされていくのがわかるだろう」
「???????」
「むっ! 近くにモンスターが湧いているな!」
俺はモンスターの気配に気づいたので、安い剣を抜き、正門から飛びでる。
サクラノがあとについてきたが、彼女は草原や大森林をキョロキョロ見つめたあとで、首をかしげた。
「師匠……本当にモンスターが湧いたのでしょうか?」
「うん、自分を青空に見立ててみた?」
「な、なんとか」
「青空の中に、暗雲が湧いていただろう?
ソレってだいたい悪い奴か、モンスターだから、暗雲を感じたら警戒してね」
「サ、サッパリ感じません……。
意識拡張の類いだとはわかるのですが……」
村の周囲はのどかなまま。
モンスターの気配なんてこれっぽっちもなくて、サクラノは困っていた。
しかしサクラノは低く唸りはじめ、カタナを抜く。
どうやら彼女も気配を感じとったらしい。
すると大森林の方角から、メキメキと大木がなぎ払われる音が聞こえてくる。
そして、全長30メートルはある、大蜘蛛があらわれた。
「ギシャアアア!」
大蜘蛛は俺たちに気づくなり、鋭利な牙を見せびらかせてくる。
問答無用で襲いかかってくる気だ!
「師匠は、あの大蜘蛛の気配を感じとったんですね!」
「ああ! 門番の技も捨てたもんじゃないだろう!」
「はい!」
サクラノはカタナを構えて、大蜘蛛に斬りかかろうとしている。
なので、俺は彼女を手で制止した。
「俺が倒すから、サクラノは見ててくれ」
「え? で、ですが……」
「雑魚みたいだしさ。俺一人で十分だよ」
「あの大蜘蛛が、ざ、雑魚ですか? さすが師匠ですね……。
わかりました! 師匠の技をしっかり拝見させていただきます!」
サクラノは尊敬の眼差しで見つめてくる。
そんな立派なもんじゃないんだがなあ。
まあモンスター戦なら、俺のほうがちょっとは詳しいと思う。
下水道でも、巨大蜘蛛とは何度も戦ったものだ。
目の前にいる大蜘蛛は、そいつらより少し大きいぐらいかな?
「――ギシャアアアアア!」
村の正門ごと押しつぶしそうな巨躯で、大蜘蛛は突貫してくる。
「来いっ! ボロロ村の門番として、ここは絶対に通さないぞ!」
なーんて。
雑魚モンスター相手に、ちょっとかっこつけてみた。
「せいっ!」
俺は、突貫してくる大蜘蛛に真正面から踏みこんだ。
蜘蛛の牙が、複眼が、すぐ間近にある。
あわや食われる寸前だったが、大蜘蛛は慌てたように、真後ろに飛び退いた。
俺はその動きに合わせて、大蜘蛛に肩タックルをぶちかまし、空中に跳ねあげる。
そしてそのまま、大蜘蛛の腹の真下を駆け抜けていき、大蜘蛛の胴体を真っ二つに斬り裂いた。
「ギシャアアアアアー……」
大蜘蛛の断末魔がひびく。
俺が剣を鞘に納めると、断たれた大蜘蛛から黒い煙がたちこめていた。
魔素だ。
モンスターの肉体は、8割以上がこの魔素で構成されている。
生命活動を停止したモンスターは体内の魔素を一気に吐き出して、原形が保てなくなり、最後は煙となって消える。
ちなみにモンスター素材が欲しいときは、急いで加工処理を施す必要がある。
または特殊な武器で部位破壊するかだ。
さて、師匠らしいことをやりますかと、俺はサクラノにふりかえって説明する。
「――このように、虫モンスターの欠点は超近接戦だ。
おそらく複眼で獲物を捉えすぎているのだろうね。
ああやって一気に距離を詰めると、驚いて硬直したり、飛び退いたりするんだ」
「なるほど……っ!」
「特に蜘蛛モンスターは真後ろに飛び退くから、その動きに合わせて、強い力で押してやると面白いぐらいにふっ飛ぶよ」
「はい……! はい……! 勉強になります!」
サクラノは頬をうっすらと桃色に染めて、感心したように何度もうなずいている。
なんだか、いかにもすごい技術を教えていますって感じで心苦しいな……。
一応、俺が培った技術ではあるんだが……。
うーん……。
俺が罪悪感を覚えていると、村のほうが騒がしくなる。
すぐに、村人たちの悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「森の見張り塔から連絡! エンシェントタランチュラが村に攻めてくるらしいぞ!」
「エンシェントタランチュラだあ⁉ 洞穴の主じゃねえか⁉ どうして村に⁉」
「みんな急いで講堂に集まるんだ! 戦える者は急いで武器をとれ!」
どうやら強いモンスターが村に攻めてくるらしい。
ちっ……!
今の蜘蛛は、もしや偵察用の眷属だったか⁉
蜘蛛はよく群れるしな……!
得意げに師匠面している場合じゃなかったか……!
「サクラノ! 俺たちも急いで講堂に向かおう!」
「あの、師匠。今の大蜘蛛がエンシェントタランチュラなのでは……?」
「え?」
「たしか……小丘サイズの凶悪な大蜘蛛と聞いたことが……。特徴もよく似ておりますし」
サクラノはほとんど煙になった大蜘蛛の死体を横目で見つめていた。
俺は片手をふって、否定してあげる。
「ないない。だって雑魚だったし」
「そ、そうですか……。師匠がそう言うのであれば、そうなのでしょう」
「さあ! 村のみんなと合流しよう!」
「はい……!」
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