第21話 ただの門番、ホラーだと気づく③
俺は迷い狂いの町を疾走していた。
背後からは暴走状態のゾンビハミィが迫ってくる。
「うーあー……早歩きゾンビは流行りー……」
ハミィはうめきながらも俊敏に歩いてくる。あくまで歩いたままでもかなりの速度だ。
うすうす感じているが、まあまあ理性がのこってないか⁉
最先端ゾンビを取りいれる余裕はあるみたいだ!
「あうー……流行りを押さえつつ暴走するー……」
ハミィはジャンプして、拳を地面に叩きつける。
ドッゴンッと派手な音がして地面が陥没すると、家屋が数軒まきこまれて、ガラガラと音を立てて崩壊していった。
すごいパワーだっ、普段の倍以上はあるぞ⁉
思いこみ次第じゃ故郷で悪さしていたらしいグリードンを単騎で倒せたんじゃ⁉
「ハミィ! こっちに来るんだ!」
俺はロングソードで民家をやたらめったら斬りつける。
追走してきたハミィが壊しやすくなるよう簡単な切れこみをしておいた。
「うー……まってー……」
「今だ! ゾンビとして暴走するんだ!」
「あー……」
ゾンビハミィの拳が吹き荒れる。
一つ、二つ、三つ、そして十棟。規則的にきちりと並んでいた家屋が次々に気持ちよく破壊されていく。
迷い狂いの町が積み木倒しのように崩壊していった。
今のハミィは暴力の化身。
拳から繰りだされる破壊的なまでの暴は、一家に一人、否、国家に一人いたら開拓が便利なハミィ・ザ・ゾンビ・タイフーンだ‼‼‼
「⁉ っとー、あぶなっ!」
俺のすぐそばで家屋がくずれてきたので、なんとか回避する。
追いかけっこするほど足場が悪くなるな。
町を守る兵士が壊しまくっているのも……ちょっと心苦しくはある。
ただおかげで、ヴィゼオールの気配がうすまっているのを感じる。町すべてを破壊する必要はなさそうか。
「うー……ハミィ、ゾンビになったからにはちゃんとがんばるー……」
ハミィはこんなときでも一生懸命だ。
思いこんだら一直線、とことんゾンビでいるつもりらしい。
思いこみで一度ゾンビ化を防いだのならば戻れるはずだ。だがもう外野があれこれいっても修正はできないだろう。むしろ話がこじれる可能性もある。
俺、あれだけ思いこみの強い子はしらないし……どーするか。
いや、勘違いをさらに利用していけばいいのか!
「ハミィ! ちょっと待とう! ゾンビらしく!」
「ゾンビらしく? わかったー……止まるー……」
俺が急停止したら、ハミィも止まってくれた。
だけど勢いがありすぎたのか突進してきて、ずってんと転んでしまう。俺は彼女を受けとめる形で地面に倒れこんだ。
「いてて……大丈夫か?」
「あー……うー……。ここからどうするんだっけ……」
ハミィは俺の腹に馬乗りになっていた。
彼女の頬に髪の毛がはりついている。熱のこもった視線で俺を見つめるさまは妖艶な美を秘めていた。
このままでは俺も噛まれてしまう。
だが思いこみでゾンビ化したということは、考える余地がまだあるということ。
訂正するのではなく、さらに思いこませればいい!
「ハミィ! 君はまだ完全にはゾンビ化していない……!」
「うー……あー……」
「かすかに意識があるだろう⁉ 君の理性がのこっている証拠なんだ‼ 己にうちかつことでゾンビ化を防ぐのはゾンビもの定番だぞ‼」
「てい……ばん……?」
定番かどうかはわからないが、ゾンビの常識だとわかれば考えるはずだ!
するとハミィは己に抗うように頭を抱えはじめていた。
「うー……ハ、ハミィはー……ハミィはー……」
「そうだ! ゾンビ化に負けるなハミィ!」
「で、でも一度ゾンビになっちゃった手前……元に戻るのも恥ずかしい……」
「自分の中の欲求……
「せ、
ハミィはゾンビらしからぬほど顔を赤くさせた。
モジモジとしはじめ、唇を恥ずかしそうに噛み、かゆそうに身悶えていた。
生きる欲求を感じはじめているんだ!
「いいぞハミィ! 己の生に耳を傾けるんだ! 生を!」
「せ、性を……性……を……」
「ああっ、生だ! 生々しくも煌めく生を感じるんだ!」
ハミィは顔どころか肩まで赤くなっていた。
溢れんばかりの熱き生が、ゾンビハミィの内側で暴れているんだな⁉
ハミィは可愛らしくぷるぷると頭をふり、そして熱い吐息をふきかけてきた。俺は鼻先で彼女の熱を感じる。
「ううぅ……あー……せ、せんぱい……」
と、ハミィは胸をばるるんっと張ってきた。
馬乗りのせいで爆乳を下から見上げる形になり、その迫力はいつもよりマシマシだ。
「ハミィ……?」
「ハミィ……ふれあうのが好きで……。せ、性を感じるのはふれあうときかなと思うわけで……。でもでもハミィはゾンビなわけで……」
「ハミィさん?」
ハミィは俺の手をおずおずとつかみ、唇まで運ぶ。
「でもゾンビの本能もあるから……❤」
ハミィはうっとりとした瞳で俺の手を見つめていた。
そして、口をねっとりとあけて、火炎を吐きだすんじゃないかと思うぐらいの息を吹きかけてくる。
噛まれた、そう思った。
「……ちゅ❤」
だが次に待っていたのは、熱々トロトロの口内だった。
ハミィの命が直接送られてきたかのような熱量が、俺の指先から伝わってくる。ねろねろしたものは彼女の舌だ。
「ハミィ⁉⁉⁉」
「ハミィ……まだ、ゾンビだから……ちゅぴ❤」
噛まないのはゾンビの本能に従っているのだろうか。
彼女の倒錯しきったような瞳に、俺は言葉を失う。いつもひかえめな子が放つ、あまりに煽情的なオーラに呑まれていた。
「ん❤ ちゅ❤」
ハミィは生を味わんばかりに指を舐めてくる。
このまま溶けてしまいそうな熱くとろりとした感触に、俺も茹るように熱くなってきた。
いかん……いかん! いかん!
このままではいかん! 本当にいかん!
「ハミィ! ちょ、ちょ、ちょっと落ちこうか! ゾンビ化がちょっと治まってきたみたいだからさ――」
「れろー……❤」
「うおおおおおお!」
「ちゅー……❤」
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺が熱き生に雄たけびをあげていると、ハミィの体がびくんと跳ねた。
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