オマケSS「ただの門番は気づかない」

 魔王討伐後、門番たちが王都から旅立つ少し前のお話。


 王都に月の光が照らしつけ、昼の喧騒が消えうせた真夜中。

 門番はひとしれず鍛錬をしていた。


「門番斬り……!」


 門番は動きやすい服装でロングソードをふるう。

 斬撃は空気を切り裂き、ズバシュッと鋭い音が鳴った。


「門番連続斬り……! 門番なます斬り……!」


 技名を叫んでいるのはモブっぽさから脱却するためではない。強くなろうと決めてのことだった。


「ダメだ! 門番なます斬りじゃあ俺が斬られているみたいだ!」


 いや、ちょっとはかっこいい技名を探っている感はあった。


 だが一応、魔王を探す旅をするうえで少しでもレベルアップしたかったのだ。


 門番にそう思わせたのは、魔王(空蝉)が空中で踏んばれる勢だったのが大きい。

 しかも魔王(空蝉)は空中で長々と踏んばれるどころかワープすらして見せた。

 真の魔王はもっと空中で踏んばれるだろうし、華麗にワープするだろう。


 今までのように空中で少し踏んばれるぐらいじゃあダメだと思ったのだ。


「門番突き……!」


 鍛錬に力が入る。

 魔王(空蝉)でも強敵だったのだ。世界にはもっともっと強い存在がいるかもしれないと、ただの門番以上に強くありたいと彼は思った。


 だが門番が勘違いしているだけで、魔王はとっくに倒している。


「今までは運よく強敵との戦いは避けられてきたけれど……」


 エンシェントタランチュラは自己犠牲の精神により倒れた。

 精霊王ブルービットは知らない内にどっかにいなくなった。

 超古代兵器グリードンはなんか勝手にエネルギー切れを起こしていた。


 これからの旅はそうそううまくはいかないだろうと、剣をふるう。


 だが門番が勘違いしているだけで、全部倒してきている。


「怯えているのか……俺?」 


 手がわずかにふるえているのは武者震いじゃないのだろう。

 自分はサクラノのように武人の精神など持ち合わせていない。どこでもいるただの兵士で、門番を天職と見定めた者だ。


 あくまでも調査の旅なだけで真の魔王と戦うわけじゃない。

 だがもし、魔王クラスの強敵と相対したときのことを考えてしまい、背中に冷たい汗が流れた。


「門番大斬り……っ!」


 恐怖をふりはらうようにロングソードをふるった。


 王都に数年勤めて、自分は凡人だとわからされた。

 それでも、この数年が無駄だったとは思っていない。民を想う気持ちが養われたし、追放されたことでサクラノやメメナやハミィにも出会えた。

 こんな自分を慕ってくれる彼女たちに応えられるよう、強くなりたかったのだ。


 魔王(空蝉)のように空中でめっちゃ踏んばれる勢にはなれなくても、もう少し踏んばれるようにありたかったのだ。


「門番……ストライク‼‼‼」


 渾身の一撃により突風が巻き起こる。

 今のは必殺技っぽかったなとちょっと満足しつつ、門番はロングソードを鞘におさめて、荒い息を整えた。


「ふううううう……」


 静謐な空気が肺に満たされていき、火照った体が夜風にさらされる。


 少し落ち着いた門番は、王都を見渡した。

 視界いっぱいに広がる景色の屋根一つ一つに民がいる。その当たり前の事実を噛みしめる。

 彼らの平穏を二度と乱さないように誓うと、なんだか気力がわいてきた。


「俺はやっぱ兵士業が性にあってるな」


 誰のためになら立つことができるか、改めて心に刻む。


 さてと、門番は汗をぬぐう。

 夜遅くに騒がしくてしてもなんだしと、鍛錬を終えることにした。


「じゃあ、降りるとするか」


 そうつぶやいて、門番はから、まるで階段でも降りるようにゆっくりと降りていく。


「階段みたいに空気を踏みしめていくと、空中でわりと踏んばれるな。今度、サクラノにお教えよー」


 こうして自分の強さに気づかないまま、門番は新たな誓いを立てた。

 たぶん、これからも、おそらく、門番は勘違いしつづける。


 後日、サクラノから『無理です。できません』と告げられるのはまた別の話。


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オマケSSです(店舗特典SSとは別です)。


1月15日に「ただの門番、実は最強だと気づかない①」がサーガフォレスト様より書籍が発売します。

書店などで見かけた際は、お手にとっていただけると嬉しいです。

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