第23話 ただの門番、ダンジョンを攻略する
俺とサクラノとメメナの三人は、ダンジョンを攻略していた。
なぜか?
それは、ほんの数時間前のことだ。
俺たちは王都方面に向かうため、メメナから教わったルートでパルパリー神聖国を北上していた。ダビン共和国との国境沿いが、人間でも歩きやすいらしい。
大森林を彷徨っていた俺としては、メメナの気遣いがありがたかった。
そして、ダンジョンから出られなくなる。
よくわからないと思う。
実際、俺たちも状況がよくわかっていない。
たまたま洞穴があったので休憩していたら、バクンッ、と口がふさがるように洞穴が閉じたのだ。
さらにはズゴゴーッと振動音に、土や石がゴリゴリと削れるような音がする。
どうにも洞窟が地中にもぐったようで、しかも移動しているようだった。
『うーむ、ダンジョンのようじゃな。
地中を移動するダンジョンなんて聞いたことないのう』
とは、メメナ談。
どこにたどり着くのかわかりやしないので、俺たちはダンジョンコアを破壊するため、ダンジョン最奥を目指すことになった。
ちなみにダンジョンコアとは、そのままダンジョンの核だ。
魔素溜まりは一定の条件を満たすと、ダンジョンに変わる。
魔素溜まりは周辺の地形と混ざり合いながら、より高度なダンジョンに進化しようとする性質があるので、冒険者が野良ダンジョンを見つけたら、すぐにダンジョンコア(魔素塊)を破壊するのが推奨されていた。
「しっかし、妙なダンジョンだな」
荷馬車が一台とおれるような幅の通路。
俺は壁を触りながらそう言った。
壁は、温度をほとんど感じない。
温かくもなく冷たくもなく、ツルンとした材質。
人工的なものみたいだが。
「ふむ、古代遺跡のダンジョンやもしれぬな」
メメナが言った。
「古代遺跡?」
「灯りがないのに明るいじゃろ?」
「たしかに、昼みたいだ」
「古代の技術じゃよ。なにが仕掛けてあるかわからぬぞ、不測の事態に備えるがよい」
と言われても。
「なあメメナ」
「なんじゃ
「こうも密着していたら、不測の事態に備えづらいんだが?」
メメナは俺と腕組みしながら、べたーっと引っついていた。
少女のほんのりした体温と、柔かいぷにぷにした肌の感触が伝わってくるので、変に緊張する。
メメナ、妙な色気があるんだよなあ。
「ふふっ、なにがでるかわからぬダンジョンなんて怖いしのー」
「闇夜で骸骨軍団と勇敢に戦っていなかったか……?」
「ワシ、見慣れぬ場所ではか弱い乙女になるんじゃよ」
まあ子供だしな。
仕方がないか。
それはそれとしてだ。
「サクラノはどうしたんだ……?」
俺の側を歩いているサクラノは赤面している。
顔真っ赤のまま、ずっと俺をガン見していた。
「はい! それは師匠! 師匠! 師匠ッ! 師匠ぅ~!」
「落ちつけ落ち着け。や、ほんとどーしたんだ?」
俺が問いつめても、サクラノは頭をぶんぶん縦にふるだけだ。
困っていた俺に、メメナが背伸びしながら耳打ちしてくる。
「兄様兄様、おそらくサクラノも兄様と触れあいた――」
「ああっと! 師匠! あそこに宝箱がありますよっ!」
サクラノはなんだか誤魔化すように、脇道の奥をまっすぐに指さした。
そこには、金の宝箱がべかーんと置いてあった。
……あからさますぎる。
罠くさい。
だがサクラノが駆けて行こうとしたので、俺は慌てて羽交い絞めした。
「待て待て待て待て‼」
「っ⁉ え、えへへ」
サクラノは宝箱を見つけて嬉しいのか、頬をゆるませた。
仲間が増えて、気が抜けているのかな。
「サクラノ、通路に罠が仕掛けてあるから気をつけろ」
「罠、ですか……?」
サクラノはすぐに表情をひきしめた。
俺はサクラノを離してから、宝箱までスタスタ歩いて行く。
「し、師匠⁉ どうするんですか⁉ 罠があるんですよね⁉」
「ちょうどいいし、罠の対処法を実践するよ。
袋小路に宝箱がある場合、だいたい罠が仕掛けられているから警戒したほうがいいぞ」
ダンジョンは『生きている・考えている』と説がある。
ダンジョンに置かれている宝箱は、ダンジョンそのものが侵入者対策に仕掛けるのだとか。
あと、罠を仕掛けるモンスターもいる。
その手のタイプは知恵がよーく回り、俺も王都の下水道で何度も罠に引っかかったんだよな……。
しかも、たまに当たりの宝箱があるから
ほぼハズレだとわかっていても豪華な晩ご飯のために宝箱をあけようとして、トラップの毒を食らってその日なにも食えなくなることがあったぐらいだ。
まあ俺のことはいいか。
サクラノに、罠の簡単な突破方法を教えよう。
「罠を意識するあまり動きが鈍くなって、そこをモンスターに襲われることもある。だから」
俺は、少し盛りあがっていた通路を踏む。
「――さっさと罠を発動させる」
両側の壁から、鉄の矢がいっせいに放たれた。
ざっと数十程か。
「師匠⁉」「兄様⁉」
下水道に比べたら楽だなあ。
あっちの罠は、いきなし数百の矢が放たれたりするし。
「せいっ」
俺はロングソードを抜いて、風圧を発生させる。
俺に襲いかかった矢は、すべて弾き飛ばされた。
「こうやって、罠をさっさと潰した方が結果的に楽になるよ」
「師匠! さすが師匠です!」
サクラノのキラキラした瞳に、ちょっと申し訳ない気持ちになる。
やっていることはめちゃ単純なんだよな……。
サクラノにああも褒められると、もっと師匠らしい技術がないか考えてしまう。
「兄様、落とし穴の罠もあると思うんじゃが」
さすがメメナ。鋭い指摘だ。
サクラノにそれを教えよう。
「それはな、踏んばるんだ」
「踏んば……? え? 師匠?」「踏んばる? どうするんじゃ?」
サクラノもメメナも目をぱちくりさせている。
っと、要点をかいつまみすぎたか。
俺も紛いなりにも師匠なら、気合や精神論で技術を教えたくないな。
わかりやすい筋道で説明できてこその技術だ。
ちょうど良さげな罠がある。
床がうっすらと変色しているので、これはおそらく落とし穴系だ。
「そこに落とし穴の罠があるから、実践してみよう。ちょっと見ていて」
俺はカチリと罠を踏む。
瞬間、床がかき消える。
幻影の類いだったようだ。
そして、俺は奈落に落ちようとするところを、踏んばってみせる。
踏んばって、空中で停止した。
「――と、このように『あ! 落ちる!』と思った瞬間に、空中で『ぐっ!』と踏んばるんだ。
そうすれば落ちずにすむよ」
どうだわかりやすいだろうと、俺は空中に停止しながら説明する。
二人は、困惑していた。
サクラノとメメナはお互いに目を合わせ、理解に苦しむ顔をする。
なんだか、俺が気合や精神論を押しつける講師みたいになっていた。
「つ、つまづいたときと同じ感覚だって!
地面で『ぐっ』と踏んばるだろう⁉ それを空中でやるだけだって!」
「師匠……わたしには難しすぎます……」
「人それぞれの感覚があるかもだけど……! 案外簡単なんだって!」
「兄様は本当に人間なのか……?」
メメナは俺に人としての教養がないと言いたいのだろうか。
たしかにド田舎出身だし、学びの機会も少なかったから、人に教えるなんて下手かもしれないけど!
どう説明すればよいのか四苦八苦していると、妙な声が聞こえてきた。
『――高濃度のエネルギー体発見。ただちに確保します』
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