第43話 ただの門番、愛弟子にお風呂で槍を見せつける

 3度目の温泉。


 さすがにのぼせるかなと思ったが、気持ちの良い温泉は何度入ってもよいもので、身体が芯から温まってくる。


 しかしさっきのサクラノも、反応が妙だったな。


『えええええええええ~~~⁉⁉⁉』


 と、顔を真っ赤にして叫んでいた。

 まるで俺が強引に誘ったような反応だ。


 メメナ……俺から変なお願いあっても従うように伝えたんだよな……?


 いや仲間を疑うのはやめよう。


 しかし心地よいな。本当に癒しの温泉ではないのかと考えがよぎる。


 いかんいかん。そう思わせることが策略なのかもしれない。

 俺はゆったりとしながらも警戒は解かないでいると、緊張した気配を感じとる。


 サクラノが、カチコチになりながら湯船に入ってきた。


「し、失礼いたしま、しゅ……!」


 噛んでいた。

 耳まで赤いサクラノは、タオルで前を隠しながらゆっくりと浸かる。


 そして緊張した面持ちで俺を見つめてきた。


「し、師匠! 師匠‼‼‼」

「お、おう……」

「き、気持ちいいですね……!」


 そう言うサクラノの表情はこわばっていた。

 彼女は緊張をほぐそうと手足を伸ばし、湯船でぱちゃぱちゃする。


「か、身体がどんどん温かります! 最高の湯ですよ師匠!」


 ――――綺麗だ。


 普段は着物でわかりづらかったがスタイルがいい。

 スラリとした手足は戦えるのかと思えるほど華奢で、腹回りは引きしまっている。タオルで隠れているが、形のよい美乳なのがわかった。


 性欲減退の術を施していて良かった……。

 さっきの会話でサクラノが愛おしく思えた今、術がなければ危うかった……。


 そこで俺は、下半身の違和感に気づく。


「?」


 視線をなにげなく下にやる。


 ⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉


 我が槍が、かつてないほどご起立しているだと……?


 ど、どうして⁉ ハミィの爆乳すら耐えきった術がなぜ破られた⁉


 サクラノを愛おしいと思ったからか⁉

 これが愛の力なのか⁉⁉⁉


「師匠……?」


 サクラノが不思議そうに俺を見つめてくる。

 いかんっ、のっぴきならない諸事情に気づかれてしまう!


「サクラノ‼」

「は、はい! 師匠!」

「俺の顔を見つめて欲しい! 俺もサクラノの顔を見つめるからさ!」

「ふぇええええ⁉」


 なんとか俺の顔に視線を合わせることには成功した。 

 あとは我が槍が沈静化するまで、こうしてお互いに見つめ合っていればいい。


 ……サクラノのうるんだ瞳とか、濡れた唇とか、ほんのり赤くなった肩とか可愛いすぎて、沈静化する気配がないんだが⁉


「あ、あの師匠……いつまで、こうしていれば……」

「……もうしばらくだ」

「わ、わかりました……。で、で、では師匠が気のすむまで……」


 サクラノのしおらしい表情に、俺はクラリときた。


 まずいまずいまずいっ、我が槍がさらに槍化している……!


 俺は慌てず騒がず落ち着いて、足の位置を変えながらタオルで完全に隠そうとしたのだが。

 さすが武人なだけあって、彼女は俺のささいな動きから異常を察した。


「? ……ひゃっ⁉」


 サクラノの顔面が瞬間沸騰する。

 俺も羞恥で顔を赤くしながらどうにか弁解する。


「サ、サクラノ……こ、これはだな……! これはなんだ……!」


 なにも、弁解できん!


 俺がぷるぷると顔を左右にふると、サクラノは顔をぷるぷると上下にふる。


 お互いなにも言えない空気でいたのだが、ゴクリと音が鳴った。

 サクラノの生唾の音だ。


「へ? サクラノ、い、今のは……?」

「っ~~~~」


 サクラノの興味津々な反応に、俺の全身がカッカッと熱くなる。


 まずいまずいまずい、サクラノが愛おしすぎてめちゃくちゃまずい!

 性欲減退の術がまったく役に立っていないじゃないか‼‼‼


 瞬間、俺にピピーンと閃きがおとずれる。


 そうっ、いつもの直感だっ!


「そうか……そうだったんだ!」

「し、師匠……? そうとは?」

「俺たちにかけられた術の目的がわかったんだ……‼」

「あの、またなにか勘違いを――」


 術の目的に気づき、大興奮した俺はザバーンと湯船を立ちあがる。

 完全に固まったサクラノに言ってやる。


!」

「ふぇ……?」

「俺は! サクラノと! 子づくりしたい‼‼‼」


 竹林に「子づくりしたいー」と俺の声が木霊した。


「ふぇええええええええ⁉」

「落ち着くんだサクラノ!」

「お、落ち……落ち、落ちていられられ……!」


 サクラノは呂律がまわっていない。


「俺はサクラノと子づくりしたい! 

 1日中! 1週間! いや! ずっとずっとサクラノと子づくりしたい! 

 その衝動が! メラメラと湧きあがっている!」

「~~~~~~っ」


 サクラノは声も失った。無理もなかろう。

 それもきっと、絶対にすべて術のせいだ。


「俺たちをムラムラさせる術だとは見当がついていた……。

 しかし、その目的がわからない。しょせんムラムラ、すぐに発散できる。しかしだ、サクラノ」

「ひゃ、ひゃい!」


 俺は我が槍をご起立させたまま、ズズイと近づいた。


「もしムラムラしたとき、魅力的な異性が近くにいればどうする?」


「……そ、その相手で、は、発散してしまうかも?」

「そうなんだよ! そこがこの術の恐ろしいところなんだ! 

 なにせ子づくりをすれば子供ができる! 

 戦士に子供ができれば、子育てをしなければならない! 

 この術はな! 穏便に戦士を引退させるための術なんだよ!」


 どうだーっと俺が力説するが、サクラノは我が槍に夢中だ。

 おのれ術中か!


「サクラノは俺と子づくりしたいか⁉」

「~~~~~~~~~~~~~~~~」


 サクラノは顔面真っ赤のまま口をあわあわと動かし、ボソリとつぶやく。


「師匠と……子づくりしたいです……」

「そうだろう⁉ 俺もなんだ! 

 俺もすーーーーーごく! サクラノと子づくりしたいんだあああああああっ!」


 すさまじい術だ。

 もし気づかなければ、俺はこのままサクラノと子づくりに励んでいた。


 ふっ……術の目的がわかってよかったな。

 お互いに子づくりしたいとわかった今これで……余計に気恥ずかしくなっただけだ!


 俺もサクラノも顔をうつむけて固まってしまう。

 なにも言わない。なにか言ってしまえば空気が壊れかねない。


 そんなときだった。


「お客様⁉ どうされましたか⁉」

「兄様ー、なんぞ面白いことを叫んでいたようじゃがー?」

「ど、どうしたの、先輩……⁉」


 キルリと、メメナと、ハミィが浴場にやってくる。

 そうして俺は、ご起立した我が槍をみんなにご披露してしまうハメになった。

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