第35話 ただの門番、またも女子会には参加せず

 ハミィが旅立つ、少し前のこと。


 サクラノとメメナとハミィの女子三人(内、人妻一人)は、大通りのテラス席で午後のお茶を楽しんでいた。


 これから仲間になるハミィとの女子会である。


 ハミィが町の修繕で忙しかったのもあるが、彼女が『ハ、ハミィと女子会なんて……もしや上下関係のわからせ……?』と疑心暗鬼になっていたので、開催がちょっと遅れていた。


 ハミィは伏し目がちに紅茶を呑みながら二人の話を聞いていた。


「――そ、それじゃあ……、超古代兵器グリードンは……」

「うむ。兄様にいさまがすでに破壊しておるぞ」


 メメナはこの国に来るハメになった原因である、地中を潜る遺跡について語った。

 特徴からどー考えてもグリードンだった。


 最初はおどおどしていたハミィだったが、メメナの話しやすさから疑心暗鬼はなくなっていた。

 このあたりの処世術は、さすが子供を育てあげた母親メメナである。


 ハミィは、落ち着いた性格たまにエッチの幼子としか思っていないが。


「す、すごいわ……。ダ、ダンジョンコアのグリードン・オメガを倒したのよね……?」

「レーザーを華麗に避けて、見事ぶった切ってみせたのう」

「せ、先輩、すごすぎるぅ……」


 ハミィは、はわわーと惚けた。


 超古代兵器グリードンは、長年この大地を悩ませていた災厄だ。

 運良く要塞内部に侵入できても、無数のトラップが待ち構えている。


 そして、かいくぐった先は、防衛兵器グリードン・オメガだ。


 絶対不可避のレーザー。傷一つ負わすことができない外殻。

 それらをいとも簡単に打ち破ってみせたというのだ。


 さすが先輩。

 さすが賢者様。

 そんなの物語の英雄じゃないか。

 あたとでお母さんへの手紙にきちんと書いておこうと、ハミィは感激していた。


「で、でも先輩……。そんな激闘があったのに、一言も……」

「本人は訓練用ゴーレムとしか思っておらんのでなあ」

「……? ど、どうして、そんな勘違いを……?」

「自分の強さを自覚しておらんのじゃ。

 兵士としては……まあ鍛えたほうとは思っておるようじゃが、どこにでもいる門番だとしか認識しておらんぞ」


 ハミィは理解に苦しんだ。


 世間をよく知らないハミィでも、彼は間違いなくトップクラスに強い。

 もしかすれば世界最強ですらある。


「兄様はどーも思いこみが強い性格のようでなー」

「お、思いこみが強くて、自分の強さを自覚できないだなんて……。

 そんなことありえるんだ……」


 ハミィは素で言った。


 ――お前もじゃい!


 メメナとサクラノは心の中でツッコミを炸裂させていたが、口には出さなかった。

 彼女の強さに思いこみが多少でも関わっているのなら、このまま黙っておこうとすでに仲間内で決めていたからだ。


 そんなこともしらずハミィは、ウキウキしながら二人に言った。


「だ、だったら……先輩に強さを教えなきゃ……!

 グリードンを破壊したってみんなも知れば、きっと英雄として歓迎してくれるわ……っ」

「あー……それなんじゃがな。本人に伝えるのはちょっと待ってくれんか」

「? ど、どうしてなの……?」

「うむ、それはのー。サクラノ、どうしてなんじゃ?」


 メメナは妖しく微笑み、サクラノをちらりと見つめた。


 自分と歳の近い女の子サクラノ。

 倭族の女の子で、先日の戦闘でも勇猛果敢……むしろ戦闘狂っぷりを発揮していた子だ。

 町の武闘派とも楽しく喧嘩していたようで、彼らが『姉御』と呼ぶぐらいには、上下関係をわからせている。


 自分とはまるっきり正反対な女の子だ。

 そのいつもハキハキしている女の子が、今はモジモジと恥ずかしそうにしていた。


「そ、それはですが……。えっと、ですね……」


 サクラノは耳まで真っ赤になっている。


「ハミィっ‼‼‼」

「ひゃ、ひゃい⁉」

「し、師匠の強さが知れ渡ったら……そのぅ……有名になるわけで?

 そうなったら一緒の修行の時間がなくなったり、するかもしれないですし……」

「ぁ」

「そうなると、ハ、ハミィの魔術訓練も減るのではないでしょうか……と……」


 有名になって自分を見向きもしてくれなかった彼を、ハミィは想像した。


 痛い。

 胸がとても痛くなる。


 彼との時間が減ってしまうことは、強くなる機会が減るということ。

 強くなりたいハミィは、だからこんなにも胸が痛くなるのだと思った。


「……せ、先輩にはまだ秘密にしておきたい、かも」

「そ、そうでしょう? ええ、ええ……っ!」


 二人はお互いの気持ちを共有したかのように、首を縦にぶんぶん振った。


 そんな二人を、メメナは楽しそうに見つめた。


「お主たちはホント可愛いのー♪」


 ケタケタ笑うメメナに、サクラノがボッと顔を赤くさせる。


 サクラノは怖い女の子だと思っていたのに、ハミィはなんだか親近感を覚えた。

 メメナもずっとずっーと親しみやすくて、ハミィは嬉しくなって、ついつい二人に呼びかける。


「あ、あの……みんなの旅に同行することになった、ハ、ハミィだけど……」

「うむ」「はい」

「こ、これから……よ、よろしくね。

 メメナちゃん、サクラノちゃん……っ」


 友だちに呼びかけるように、ハミィはそう言った。


 二人は……特に、サクラノが驚いた表情でいた。

 もしかして嫌だったのかと思い、ハミィはすぐに謝る。


「ご、ごめんね……。こ、この町の若い子は、もっと暮らしやすい場所に行くから……同世代の女の子はほとんどいなくて……。

 だ、だから、友だちみたいに呼びたくなったのだけれど……い、いやだったよね……?」

 

 サクラノはしばし呆けていた。

 

「狡嚙流のわたしが……友だち……」


 そして、ちょっと恥ずかしそうに微笑む。


「……いえ、嫌ではありません」

「うむうむ。メメナちゃんかー、可愛くて良いぞ♪」


 二人に優しい笑顔を向けられて、ハミィは自然と笑った。


「う、うん、よろしくね……っ」


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ここまでお読みいただきありがとうございます!

勘違いに勘違いが重なり、まだ勘違いが重なっていきます(主に門番のせいで)。

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