第34話 ただの門番、またも旅立ちを共にする

 荒野鮫ランドシャーク襲撃から数日後。

 戦いの傷痕がいたるところに残っていたが、町を修繕している獣人たちの表情は、実に晴れ晴れとしていた。


 なぜか?

 例の超古代兵器グリードンとやらが、活動停止したからだ。


 グリードンの反応を探る古代道具があったらしく、どうもここ数日反応がない。

 道具の感度をあげてじっくり探ってみたところ、地中深くにもぐっていたグリードンのダンジョンコアが完全停止した模様。


 どうやらエネルギー切れを起こしたらしい。

 この大地の厄災であった超古代兵器の騒動は、ウッカリでその幕を勝手に降ろしていた。


 先日の荒野鮫ランドシャーク襲撃は、天敵であるグリードンが停止したことにより、縄張り拡大を目論んでのことのようだ。


 悩みの種が消え、獣人たちはそれはもう花丸笑顔。


 俺も町の修繕を手伝っていた。

 トンカチで壁に刺さった釘を叩いていると、木をカタナで切り刻んでいたサクラノが話しかけてくる。


「師匠ー。みんな嬉しそうですねー」

「そりゃあー、町が破壊されることもなくなったしなー」

「ちょっと意外です。獣人は町に愛着をもたないものかと思っておりました」

「ん。ここの獣人は町じゃなくてさ……おっと」


 俺が釘を打とうとして、手持ちがないのに気づく。

 すると、メメナが屋上から釘を渡してきた。高所作業を手伝っているようだ。


「ほれ兄様にいさま

「おっ、ありがと」

「して。兄様はなにを言おうとしたんじゃ?」


 メメナは、真白い太ももをチラチラと見せつけながら言った。


 どーにも隙あらば色香でかどわかす真似をするな。この子は。

 相手が熟女であったら危ないところだが、小さな子供相手に動揺する俺ではない。


 俺はメメナのまぶしい太ももにちょっと照れながら答えた。


「彼らはさ、町じゃなくて人に根付くんだよ」


 俺は大通りを駆けまわっているハミィに視線をやる。


 ハミィはあわあわしながらみんなを手伝い、そんな一生懸命な彼女をみんな温かく見守っていた。

 彼らが一番守りたい光景がちゃんと守れたわけだ。


 〇


 そうして、絶好の旅立ち日和がやってくる。


 彼らは気前よく荷馬車を貸してくれただけではなく、旅道具をもろもろ新調してくれた。さらには旅の資金もいただいた。結構な額だ。ありがたく、ちょうだいする。


 そんな俺たちは、町はずれで大勢の獣人に囲まれていた。


 獣人たちに受け容れられただけじゃない。

 彼女がいるからだ。


「ハ、ハミィ……が、がんばるからね。み、みんなも元気でいてね……」


 ハミィはぐじゅぐじゅに泣いている。

 その腰には魔導ポーチがかけられていて、旅支度はバッチリだ。


 獣人も全員涙目だ。

 がまんできずに泣いている者もいる。


「ハミィ! ちゃんと飯食べるんだぞ!」

「辛くなったらすぐに帰ってきてもいいからな!」

「ここはお前が守った町なんだから!」

「お前が帰ってくるころには、びっくりするぐらい賑やかな町にしてみせるよ!」


 ハミィは、町を旅立つと宣言したのだ。


 町のみんなは反対したし、外でやっていけるのか心配する者もいたのだが。

 ハミィがこう言ったのだ。


『み、みんなを心配させないぐらい強くなる……。

 みんなが安心して暮らせるぐらいに立派に成長してみせるわ!』


 いつも自信のない彼女が、キッパリとそう言った。

 ハミィは住み慣れた町を離れて、修行の旅に出ることを決めたのだ。


 修行と聞き、サクラノが彼女の背中を押したのもある。


 しかし、いざ旅立つとなってやはり名残惜しいのか、ずーーっとああしてみんなして泣いている。


 こりゃあもうしばらく時間がかかるなと、俺はゆっくりと待つことにした。

 と、サクラノがついついと服をひっぱってくる。


「師匠ー師匠ー。なんでも町の名前を決めたそうですね」

「古代兵器の憂いもなくなったしなあ。定住しやすくするためにも、町の名前をつけるみたいだ」

「どんな名前か師匠は聞いています?」

「ああ、満場一致だったぞ」


 俺は笑顔でサクラノに言ってやる。


「――ハミィだ」

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