第39話 ただの門番、人妻ロリバアアエルフと温泉にはいる

『あとはお二人でごゆっくり』


 キルリはそう言って、英雄の間から去って行った。


 部屋には俺とメメナだけ。他二人は別室だ。

 畳にあぐらをかきながら静謐な空気に浸っていると、ちゅぽりちゅぽりと水が弾けるような音が聞こえる。


 メメナが女の子座りしながら棒付きの飴玉を舐めていた。


「っちゅ……っちゅ……」


 よほど甘味が欲しかったのか、夢中で舌を這わせている。


「ねろー……ん……っちゅ……」


 銀髪少女の舌がチロチロと蠢くたびに、飴玉が溶けていく。

 垂れた雫を上手に舌でからめとり、飴玉を口に出し入れしていた。


「ん……っ❤ ぢゅぼ……ぢゅ……んっ……❤」


 メメナはほんのりと頬を染めながら愛おしそうに舐める。


 すごいな、もう飴が溶けそうだ。

 俺、ついついかみ砕いちゃうからな。


「ちゅ……んっ❤ れろー……❤」


 メメナは舐めきって、ちゅぽんと口から棒を離す。

 完食して満足したのか、舌なめずりしている。獲物を狙うかのような瞳で見つめてくるので、俺はちょっと気圧された。


「す、すごい夢中に舐めていたな」

「なにせ久々だからのうー。ちょっと練習じゃ」


 練習とは?


 やはりメメナも意識に働きかける術に気づいているのか。飴玉を舐めるのは解呪のために必要な儀式の練習だった、とか。


 誰が聞いているかわからない。俺はなるべく明言せずに告げる。


「練習の成果、あとで俺に見せて欲しい」


 メメナの頬がカーッと赤くなる。


「お、おおう……まさか、そう言うとは思わなかったぞ……」

「す、すまない……もう少し遠回しに言うべきだったな……」

「いやいや、ええんじゃよ。ええんじゃ」


 メメナは身体が熱いのか、両手でパタパタと顔を煽いだ。

 それから、嬉しそうに頬をゆるませる。


「ふふっ……この歳になって求められるのも悪くないのぅ。

 うむうむ、精一杯励むでな。兄様も期待するといいぞ♪」


 この歳になって求められる?

 もしかして、子供には負担のかかる解呪方法なのか。


「俺、無理させてないか……?」

「? 無理とはなんじゃ?」

「そりゃだって……メメナはまだ子供だし……」

「小さい身体だと遠慮することはないんじゃよ。ワシは理解があるほうじゃ」

「だ、だけど負担になるのなら……」

「そうじゃなー、あまり激しすぎるとワシは壊れてしまうかもしれんが……」 


 やっぱり負担のかかる解呪なのか⁉


 俺が心配そうにすると、メメナは自分の膝をぽんぽんと叩く。母親のような慈愛の笑みを浮かべ「はようおいで」と言ってきた。


 俺がぼけーっとしていると、少女に手を引っぱられる。


「わっ」


 俺の頭はメメナの膝にぽてんと着地する。

 すぐ目の前に、少女の綺麗な顔があった。


 柔らかい太ももに居心地の良さを感じていると、メメナがささやくように語りかける。


「ワシはな。兄様に感謝してもしきれんのじゃよ」

「俺、なにかしたっけ?」


 メメナはくすりと笑う。


「ワシの……ワシたちビビット族の運命を変えてくれたじゃろう?」

「? 精霊王は勝手にいなくなったわけだし……ビビット族が独立したのは彼らの強い意思によるものだろう。

 俺は門番として見ていたからわかるよ。俺は特になにもしてない」

「……門番としてか。兄様はそーやって、みなを見てくれるのじゃな」


 メメナが俺の頭を優しく撫でる。

 こそばゆくて気恥ずかしいが、逆らうことはしなかった。


「その視線が嬉しかったのじゃよ。

 種族の垣根を越えて、森や……ワシたちを守ろうとしてくれた兄様に嬉しくなったのじゃ」


 メメナが俺の瞳をのぞきこむ。吐息が俺の鼻をくすぐった。

 もう少しで唇が触れあいそうで、俺は少女だとわかっているのにドキリとした。


 この子のこうした大人びた仕草には惹きこまれる。


「兄様がワシを求めるのなら、応えない道理はなかろう」

「メメナ……」

「それとじゃが……。ちょ、ちょっと激しいぐらいが好きじゃよ。ワ、ワシ」


 メメナは照れながら言った。

 いつも飄々としているが、頼られるのは恥ずかしいようだ。


「わかった。メメナ、ぜひお願いするよ」

「う、うむ。そう面と向かって言われると身体が火照るのぅ」


 メメナの身体はぽかぽかと温かい。

 汗ばんでもいるみたいだが、解呪のための準備だろうか。


「それでは兄様、温泉でまずは身体を清めようか」


 〇


 部屋に備えつけの温泉。

 俺はこじんまりしたものかと思っていたが、部屋よりずっと広かった。


 脱衣所を抜けた先は、露天風呂になっていて、湯船からは立派な竹林を眺めることができる。


 俺は身体を洗い流してから湯船に浸かる。

 カコーンと音が鳴った。このカコーンっていったいなんだろな。


 快適だ。驚くほど快適だ。

 身体が芯からじんわりと温まりつつも、涼しい風が頭を冷やす。

 竹林が風でザアアッとゆれるたびに、心が和む。


 もしかして、本当にただの癒しの温泉宿なのか?

 俺が勘違いしているだけじゃ……。


「いやいや、油断するなよ。俺っ」

「なんのことじゃ?」


 タオルで身体の前を隠したメメナが、ちゃぷりと湯船に入ってくる。

 メメナは肩まで浸かると、俺の隣で気持ちよさそうに足を伸ばした。


「はふー、良い湯じゃのう……」

「あ、ああ……」


 相手が子供とはいえ、さすがに目のやり場に困るというか……。


 メメナの身体はところどころ大人っぽい。

 胸はぺーたんと子供なのだが、尻や太ももは肉付きが良い。艶がある。両腕を伸ばして見える脇、うっすらと浮かぶあばら骨に視線が誘導されてしまう。


 素肌に張りついたスケスケのタオルは……なんというかだっ。


 いかんいかんいかんっ!

 メメナは解呪方法を試すために、一番怪しいこの風呂に入ってくれたようなんだ。

 よこしまな考えは捨てろ、俺! お前は熟女好きだろ!


「…………」


 一応、俺は我が槍に視線をやる。


 よかった……ご起立していない。


 旅に出かける前、性欲減退の術を魔術師に施してもらってはいる。

 なぜなら冒険ではムラムラが厄介だからだ。


 ムラムラが高まりすぎると、集中力の欠如につながる。


 男女混合のパーティーにおいても、トラブルの原因は大半がムラムラだ。

 ダレソレが野営中に励みすぎて、その隙をモンスターに襲われたなんてよくある話。恋愛トラブルにも発展する。


 だから冒険で遠征するとき、性欲減退の術はわりと必須だったりした。

 ただ、我が槍がしばらくご起立しなくなるわけだから勇気はいるが……。


「じーーーっ」


 と、メメナの視線に気づく。

 少女は我が槍に視線を注いでいるようだった。


「ど、どうしたんだメメナ?」

「や、その、なんじゃ。確認というか……兄様のサイズ次第では覚悟を決めなければいかんし……。あ、あはは」


 メメナは誤魔化すように笑いながら、まじまじと見つめてくる。


「うーむ、大きいのう……。この時点でこれか……入るかのう……」


 ど、どこかに入れるのか⁉

 我が槍がどこかに入ることで成しえる解呪なのか⁉


 メメナは指をひらき、我が槍のサイズを目測しながら、お腹に押しあてている。

 その仕草に、ちょっとムラリときてしまう。


「うむ、大丈夫じゃろ。兄様、もうええぞー」

「お、おう……」


 あのままジロジロと見られていては、背徳感諸々で危なかったかもしれない……。


 俺が胸をなで下ろしていると、メメナがつついと近寄ってくる。

 そして少女は太ももにのっかり、正面から抱きあうよう腕を俺の腰に回してきた。


「メ、メメナ⁉」

「さーぁ、前哨戦で軽ーく一発じゃ♪」


 近い近い近い⁉

 濡れた柔肌とか、ぽかぽか体温がめっちゃ伝わってくるんだが⁉


 メメナの熱い吐息に意識が奪われかけて、俺は慌てて確認する。


「……そ、それで、ここからどう解呪するんだ?」


 メメナにしか伝わらないように小声で告げる。


「…………解呪?」

「みんなの意識に働きかけている術を解呪するんだろ。

 ……メメナがなにも知らないフリをしているのは、術者を探っているんだよな?」

「なんじゃそれ?」

「あの自称女神、俺たちが勇者級の戦士なんてありえないじゃないか」

「あー……。兄様、そーゆー勘違いを……」


 メメナはちょっとガッカリした表情だ。


「え……? お、俺、なにか勘違いしていたか……?」


 するとメメメは目を細め、妖しく微笑んだ。


「いーや。勘違いなどしておらんぞ。そうじゃのう。サクラノやハミィは術が効いておるようじゃから、ワシら……兄様がなんとかする必要があるかものぅ♪」


 面白いことを思いついたみたいに、メメナはほくそ笑んだ。

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