ただの門番、実は最強だと気づかない ~貴族の子弟を注意したせいで国から追放されたので、仕事の引継ぎをお願いしますね。ええ、ドラゴンや古代ゴーレムが湧いたりする、ただの下水道掃除です~

今慈ムジナ@『ただの門番』発売中!

第1章 ただの門番、実は最強だと気づかない

第1話 ただの門番、モブ臭が半端ない

「ようこそ、王都グレンディーアへ!」


 山のような城門を抜けた先で、門番の声がひびく。

 大昔、勇者と魔王が激戦を繰りひろげた大地は、今や王都となっていた。


 王都グレンディーアは近々、建国300年周年記念がおこなわる。

 国中活気にあふれ、荷馬車がひっきりなしに行き交う。商店が建ちならぶ大通りは花が彩っていて、街ゆく人の表情も明るかった。


 さて。

 この華やかな王都で、俺はいったいどんな人物だと思う?


 白銀の鎧に身をまとった近衛兵。威風堂々とした冒険者。

 豪奢な貴族。知的な学者。平和を謳歌している市民たち。


 俺は、そのどれでもなかった。


「ようこそ、王都グレンディーアへ!」


 ご理解いただけただろうか。


 ここだ。

 城門近く、他の一般兵士にまぎれている奴。


 やっっすい鎧を着ているのが俺だ。


「ようこそ、王都グレンディーアへ!」


 俺は街をおとずれた人に元気よく挨拶するが、スルーされる。

 門番にとって、よくある日常だ。


 そう、俺はどこにでもいる門番だ。


 しかしただの門番だと侮ることなかれ、ベスト・オブ・門番賞をさずかったこともある。

 ちなみに門番として優秀だからではなく、モブキャラすぎるからが選出理由だ。


『お前ほどモブキャラっぽい奴、他にいねーよ』

『モブ臭はんぱねー』

『こんな全然印象にのこらない奴、初めて見た』


 同僚の兵士たちは、そんな俺を讃えるために賞を進呈したのだ。

 果物とトロフィー付きで。


 なめとんのか、おどれら。


 俺は憤慨したのだが、俺があんまりにも印象にのこらないモブすぎたせいで、奴らはベスト・オブ・門番賞を進呈したこともすっかり忘れていた。


 なんかもう色々と諦めていた。

 ぶっちゃけ、俺のモブすぎる特徴も自分がよーーくわかっている。


 ド田舎に住んでいたころも、村人から存在を忘れられる始末。

 わずか数十名足らずの村なのに、どーなってんだよ。


 だからモブすぎる自分を変えようと、俺は成人してすぐ、華やかな大都会にやってきたのだが。


「ようこそ、王都グレンディーアへ!」


 俺の声は虚しくひびく。


 花畑の中にある小石など、誰も気に留めないのは道理すぎた。


 王都グレンディーアに来て、早3年。

 俺はすっかり背景と化していた。


「ようこそ、王都グレンディーアへ!」


 こればかりな俺の台詞は、すっかり板につきまくっている。


 ただ最近は、門番としての誇りができて、以前より苦ではなくなった。

 モブっぽい。印象にのこらないってのは門番稼業に最適だ。

 話しかけられやすいし、警戒されにくいから悪人も俺の前では油断しやすいわけだ。


「ようこそ、王都グレンディーアへ!」


 俺はこうして、ひとしれず国を守る。

 門番オブ門番として、門番の道を極めるのも良いかもしれないな……。


「――なにしやがる、クソガキ!」


 男の怒鳴り声だ。

 事件か?


 大通りに目をやると、3人組の冒険者が、小さな男の子と揉めていた。


 剣士の男。魔法使いの少女。大盾の男がいる。

 どうやら剣士の男が、男の子にからんでいるようだ。


「あーあー! オレの服がお前のジュースでベタベタじゃねーか!」

「ご、ごめ……」

「ごめんじゃねーの! 謝ってすむかよボケ! 

 どこに目をつけて歩いてんの? な? お前の親どこよ? 土下座させてやるからよ」


 男の子はすっかり萎縮している。

 剣士の男の隣で、魔法使いの少女が煽るように笑った。


「キャハハ、ケビンー? 土下座しても許さないんでしょー?」

「はっ、当たり前だろ! オレへの土下座は礼儀だ礼儀! 許すかどーかは、まあそっからだな」


 ガラの悪い冒険者だな。子供相手に大人気ない。

 ここは門番として注意してやらねばな。


 彼らに歩んでいくと、同僚の兵士が「おい、やめとけ。あいつらは――」となんか制止しかけていたが、俺は遠慮なしに注意してやることにした。


「ようこそ、王都グレンディーアへ!」


 いかん。

 ずっと同じ台詞だったから間違えた。


 ガラの悪い冒険者たちは、俺の台詞にいぶかしんでいる。

 ケビンと呼ばれていた男は、特に眉をひそめた。


「なんだあ? このモブ臭やっべー兵士」


 初見でモブ扱いされる俺っていったい。

 慣れているけども。


「君たち、子供相手に大人気ないぞ」

「はーーーあ? あのさ。このクソガキは、俺の大事な大事な服にジュースをぶっかけたわけ。

 お前の給料よりたけー服なんだぞ」

「悪気があったんじゃないだろう」

「悪気がなきゃいいのかよ? だいたい子供をしつけるのは大人の役目だろーが」

「親を呼んで土下座までさせるのはやりすぎだ」


 俺が厳しめの声で言うと、ケビンはムッと唇をとがらせた。


 すると、ずっと無口でいた大盾の男が、俺の正面に立ってきた。まるでケビンを守るように。

 魔法使いの少女は、ニタニタと薄気味悪く笑っている。


「おにーさん? いいのー? どーなってもしらないよー?」

「? いいもなにも、これが俺の仕事だ。放置するわけにはいかない」

「キャハハ、そーなんだ。大変だねー?」


 これからお前はもっと大変な目にあうぞ。

 少女のそんな笑みに俺がたじろいでいると、ケビンがほくそ笑んだ。


「なあ、モブ兵士さんよ。俺たち冒険ギルド『悠久の翼』をしらねーのか?」

「知らん。それが、俺が注意しない理由にはならないだろ」


 ケビンが不快そうに目をつりあげた。

 標的が俺に変わったのを感じたので、俺は子供に「行きなさい」とうながして、ここから逃がしてあげる。


 そんな俺の態度が余計に気に食わないのか、ケビンが仲間に目配せした。

 大盾の男が威嚇するように仁王立ちする。

 魔法使いの少女はケタケタと笑っていた。


 兵士への威嚇行為だ。

 もはや見逃せん。

 きちんとお説教をしなければ。


「君たち、ちょっと屯所まで来てもらおうか」

「いいぜ? お前んとこの上司とじーっくり話そうじゃねぇか」


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お読みいただき、ありがとうございます!

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ここまで応援してくださった読者さまのおかげです!

楽しく、騒がしく、ただの門番とちょーっぴり個性強めなヒロインたちとの盛大な勘違いの旅はまだつづきます。


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書店で見かけた際はお手にとっていただけると幸いです!


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