第31話 ただの門番、荒野のサメと戦う

 大通りでは、本当にサメが襲来していた。

 獣人たちが逃げ惑い、いたるところで悲鳴や怒声があがっている。


 無数の背びれが、地表に溶けこむように蠢いている。

 まるで水中を泳ぐように、そのサメサメしい身体をときおり見せつけていた。


 サメだ。

 本当にサメだ。

 どうして大荒野にサメが⁉


 いやしかし、サメはそのフォルムから水棲モンスターだと思われがちだが、いたるところで生息できる特性を持つらしい。


 王都の下水層では壁を泳いでいたじゃないか!

 大荒野で生息ぐらいするさ!


 地中を泳ぐサメは、酒場前にいた主婦に襲いかかる。


 砂煙が巻きあがり、そうして、サメが姿をあらわす。

 人間サイズの砂色をしたサメは、ギラリと鈍く光る牙で食いつこうとした。


「せいっっっ!」


 俺は駆け抜けながらサメを輪切りにする。

 バラバラになったサメが地表に落ちると、別のサメが集まってきて、あっというまに仲間を食いつくした。


 くっ!

 数が多すぎる⁉ 

 大通りだけでも100体以上いるぞ‼


 100、200、下手すれば1000以上か⁉

 王都の下水道でもこんなに一気に湧くことはなかったぞ⁉


「ハミィ‼ これは⁉」


 俺は襲いかかるサメを切り倒しながら尋ねる。

 ハミィは水飛沫アクア・スプラッシュでサメを穴ぼこにしていた。


荒野鮫ランドシャークだわ……⁉ 

 荒野の掃除屋と呼ばれる食欲旺盛なモンスターよ……!

 でも、おかしいわ……! 超古代兵器が目覚める時期は、奴の餌になるのを避けて岩場に隠れているのに……!」


 つまり、なにか理由があって、町に押し寄せてきたのか⁉

 ネズミは天災が起きる寸前、群れで逃げだすというが……。

 まさか超古代兵器が目覚めて、すでに迫っているとかじゃないだろうな。


 状況がわからない。

 こーいったときに心強いのは……。


「師匠ー! ハミィー! ここにいましたかー!」


 サクラノがランドシャークをずばしゅとカタナで斬りながら駆けてくる。

 サメが大量発生しても慌てることなく、とっても溌剌した表情だ。


 乱戦になるほど元気になる子なので、いると安心するな……。


「サクラノ! 状況はわかるか⁉」

「はっ! およそ1000体以上のサメが一塊になって町にやってきたそうです!

 大通りの主要施設を破壊したあと、サメ共は町中に散ったとメメナからの報告が!」


 サクラノは褒めて褒めてオーラを醸しながら言った。

 そのメメナはどこに行ったのかと思えば……。


 いた。

 屋根と屋根を飛び移りながら、魔導弓で地面のランドシャークを的確に射抜いている。

 メメナは俺と視線が合うなり、余裕の笑みで手をふってきた。


 まったく動じていない。

 うちの仲間は武闘派だなあ……。


「しかし1匹1匹ならたいしたことないが、1000匹以上か……」


 いくらなんでも数が多すぎる。

 標的が俺だけなら別になんてこともないが、住人を守りながら戦うには絶望的に人手が足らない。


 ハミィも同じ考えにいたったのか、顔を青ざめさせた。


「そ、そんな……。そんなに数がいたら……み、みんなを守りきれない……」


 後ろ向き思考に陥ったようで、呆然と立ち尽くしている。


 しっかりしろと言ってあげたいが、ここは彼女の町。

 誰よりも町を思っているがゆえに、大きく動揺しても無理がない。


 立ち直りの言葉を考える俺だったが。

 そんな俺たちに、威勢の良い声が聞こえていた。


 武器を持った獣人たちだ。

 彼らは手に剣や槌を槍を持ち、サメ相手に反撃しはじめていた。


「サメごときがオレらの町でしゃしゃってんじゃーねぞ!」

「全員スープにするぞオラァ!」

「脳髄ぶちまけろや! クソザメか!」


 言葉が荒い。目は血走っている。

 さすがだ。

 ただヤラれるだけの被害者じゃないってか。


 しかし獣人たち。全員当たり前のように武器を持っているな?

 やけに準備が良い。武器の手入れもされているようだ。


 その違和感に、ハミィが叫んだ。


「ど、どうして! みんな、武器を持っているの……⁉」


 ハミィの疑問に誰も答えない。

 罰が悪そうな表情で、サメを撃退していた。


「ま、まさか、みんな……グリードンと戦うつもりだったの……?

 ハミィに隠れて準備をしていたの⁉⁉⁉」


 ハミィの疑問に、彼らは視線を逸らした。


「な、なんで……⁉ どうして……⁉ わからないわ……!

 だ、だって……みんなちゃんと逃げるって……!」


 ハミィは動揺していた。


「ハ、ハミィはそんなに頼りない……? ハミィは……!」


 そんなハミィに、ランドシャークが襲いかかる。

 彼女の首筋を狙ってきたサメを、俺は一刀に伏せながら言ってやった。


「ハミィ!」

「先輩……………………」

「君の役目はなんだ⁉」


 当たり前の問いが心に響いたようで、ハミィの瞳に力が戻る。


 そうだ!

 町を守ると一歩踏みだした子が、ダメダメで弱いわけなんてない!


 俺は聞いてあげた。


「君は一体、誰なんだ!」

「この町の…………保安官よっ!」


 ハミィは、正面から向かってくる30匹のランドシャークに視線をやる。

 彼女は怯えることなく、威風堂々と対峙した。


 さあ、乱戦のはじまりだ!

 俺はロングソードを握りしめながら、自分の存在意義を問う。


「そして俺は……ただの門番だ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る