ただの門番、実は最強だと気づかない ~貴族の子弟を注意したせいで国から追放されたので、仕事の引継ぎをお願いしますね。ええ、ドラゴンや古代ゴーレムが湧いたりする、ただの下水道掃除です~
第14話 ただの門番、ホラーだと気づかない①
第14話 ただの門番、ホラーだと気づかない①
金髪の女が妖しく笑う。
俺はすぐさまロングソードをふるったが、金髪の女は踊るように避けた。
『あらあら、怖いですわ。……なーんてな!』
金髪の女が邪悪に笑い、だんだんと実体がなくなっていく。服がすとんと地面に落ちて、紫のガスが空中に広がった。
『ふーひひひっ! あのままオレ様に騙されてはよいものを!』
ガスの声が通りに響く。
もしや実体なし系モンスターか⁉
「この町の異変はお前の仕業か!」
『さあ? オレ様かもしれないし、そうじゃないかもしれない。気になるか? 気になるだろう? ふひひひ!』
「せやあああああああ!」
とりあえず、怪しさしかないので斬っておいた。
『ひぎゃあああっ⁉ な、な⁉ オレ様に傷を与えただと⁉』
むっ?
ガス状モンスターのせいか、位置がわかりづらくて攻撃が浅めになったか。
紫のガスは周囲に漂いながら俺を怒鳴りつける。
『いきなり斬りつける奴がいるか! 恐怖演出を大事にしろや!』
「答える気配なさそうだったし……」
『もったいぶって話す奴がいたら付き合ってみるが人情だろうが‼』
モンスターに人情を問われた。
俺が不服を感じていると、紫のガスはさらにグチグチ言ってくる。
『だいたいよぅ、初手で正体を見破るってのもなってないんだよなあ……。恐怖への心構えがなっちゃいねぇ。最近の人間はこうなのか? ……ったくよ』
微妙に攻撃し辛いなーと思っていると、ハミィが街灯をひっこぬく。
そして槍代わりとして紫のガスに投擲した。
「
『うぉい⁉ だからいきなり攻撃するなよ⁉』
「先輩! ハ、ハミィの魔術が効かないわ⁉」
『今のが魔術だぁ⁉ っつか、オレ様の話を聞けや!』
紫のガスに叱られてしまい、俺たちはしゅんとなる。
俺たちが大人しくなったのを見計らって、紫のガスは高笑いした。
『ひーーっひひひ! 無駄無駄! オレ様を傷つけることは……いや、なんだかできるみたいだが、基本傷つけることはできないんだぞ!』
「ハミィ。もし無形系が苦手なら、まずは袋で集めるのもありだぞ」
「な、なるほど……。捕まえるだけ捕まえておくわけね」
『聞けよ‼ なんなんだこいつら……! ああ、もうっ、お前たちをさんざん苦しめてから名乗ろうと決めていたが……』
紫のガスはおどろおどろしい声で名乗りをあげる。
『オレ様の名はヴィゼオール‼ 死を司る魔性だ!』
「せいやあああああああああ!」
『ぎゃああああああああああ⁉』
むむむっ?
今度はふかく斬ったのだが、手応えが妙だ。
どうしたことかと思ったら、ヴィゼオールというモンスターは町中から紫のガスを集めて再生していた。
こいつもガッツのあるモンスター勢か。
多いなー。ガッツ勢。
『き、貴様ら……! オレ様でなければ死んでいたぞ⁉』
「姿をあらわしておいて攻撃するなは無理があるだろう」
『ちっ……! そもそも、オレ様は正面きって戦うキャラじゃないのだ!』
「……じゃあ、普段はどう戦っているんだよ」
俺は仕方なしに聞いた。
『いいぞいいぞ。相手の話を聞く姿勢は大事だぞ。いいか? オレ様は心の隙を突くのを得意戦法としている。人間に底知れぬ恐怖を与える、恐るべき魔性がオレ様なのだ!』
うーん……死を司る魔性なあ。
かなり邪悪な存在みたいだが、魔王分身体よりも圧倒的に格下みたいなんだよな。ハミィも特に怯えている様子はない。
異変の原因っぽいし、さっさと倒しておきたいのだが。
「つまり、どういう恐怖を与えるわけで?」
『ふひひっ! こうするのさ‼‼‼ でてこい! 死者ども!』
ヴィゼオールが叫ぶと、民家の扉がバタバタとひらいていく。
すると、どこに隠れていたのか町民たちがあらわれた。
十、二十、三十人とやってくる。ただ様子がおかしい。
彼らの肌は青白いし、頬はこけている。髪は水分を失ったかのようにチリチリだ。目には生気がないし、その足取りもおぼつかない。
だらしなく口をあけて、苦しそうにうなっていた。
「うーあー……」「あーうー……」「ううー……」
まさか死霊系モンスターの群れか⁉
俺はロングソードをかまえるのだが。
『待て‼ 問答無用で攻撃しようとするな!』
「え?」
『奴らはただの死者ではない! オレ様に囚われた哀れな犠牲者なのだ! お前は悪意のない人間を傷つけることができるのか? くひひっ!』
「つまり、お前を攻撃すればいいわけだな?」
『待て! 待て! ホント待てっ‼』
ヴィゼオールはガスをわちゃわちゃさせて焦っていた。
青白い人たちは俺たちの前に壁となって立ちふさがる。奴の犠牲者だとするならば、たしかに相手しづらいが……。
「せ、先輩……。ハミィ、どうすれば……」
青白い人たちがにじり寄るも、ハミィも同情したのか攻撃できずにいた。
ヴィゼオールは彼らを盾にしながら戦うつもりのようだ。
俺は精神を集中させ、ヴィゼオールを直接狙おうとしたのだが。
「きゃっ⁉」「ハミィ⁉」
ハミィが青白い女に腕を噛まれた。
ハミィはがじがじと噛んでくる青白い女を引きはがしたが、ヴィゼオールがこことぞばかりに笑った。
『ふひひひひ! 噛まれたな⁉ こいつは嚙んだ者を仲間にするゾンビなのだ‼ これでお前も仲間入りだあああああ!』
「なっ! ゾンビだって⁉」
ゾンビ系の物語は何度か読んだことがある!
感染力が強くて、平和な村があっというまにゾンビだらけになるパニック物は王都でも人気なんだよな!
じゃなくて、ハミィの容体は⁉
ヴィゼオールの高笑いが響く中、ハミィは呆然と立っていた。
目をぱちくりとさせて、あどけない顔でいる。
「? どうしたの? 先輩」
俺も、ゾンビも、いっこうに変わらない彼女に戸惑っていた。
「ど、どうしたって……。ハミィ、ゾンビに噛まれたわけで……」
「やだなあ、先輩。ゾンビなんていないわよ」
ハミィはおかしそうに微笑んだ。
え。そうなの?
「ゾンビ、いないのか?」
「先輩、ゾンビは空想上のモンスターなの。死霊系モンスターを面白おかしく作劇しただけの空想上の産物。普通はね、死後硬直で動けないわ」
「いないんだ、ゾンビ」
「獣人の教義でもゾンビはいないとされているわ」
ハミィは自信満々に言いきった。
彼女の勘違いなんじゃと思った。
しかし噛まれてゾンビ化していないわけだし、いくら思いこみが強いからってゾンビ化を防ぐなんて普通できない……さすがにできないよな???
ゾンビどうのこうのはなんだったんだ。
もしや、ヴィゼオールのハッタリか?
死を司るだの言って『オレ様めちゃ極悪ですよ』オーラをかもしているが、魔王分身体の圧に比べたらゆるゆるもいいところ。どこまで本当のことなのやらだ。
案外、俺たちをちょっとビビらせたかっただけなのかも。
「じゃあ彼らはゾンビじゃないのか」
『ゾンビだってーの⁉⁉⁉ なにを根拠に言ってんだ!』
「……学術的に?」
『なにが学術的にだ! 頭悪そうな返しをしやがって!』
ヴィゼオールは勘弁してくれといった様子で叫ぶ。
『なんなんだこいつら⁉ 心は隙だらけなのにぜんぜん動じない……ああっ、アホか! お前らアホなんだな⁉』
天然アホ呼びされることはあるが、初対面のモンスターからもアホ扱い。
もういい、滅ぼそう。
むっときた俺はロングソードをかまえる。
『ま、待て! 死者どもはオレ様が支配している! オレ様を倒せば奴らが地獄の苦しみを味わうぞ⁉⁉⁉』
「女に擬態だの死を司るだのゾンビだの、噓つきの言うことなんか信じられるか」
『地獄の苦しみは嘘だけども! ……あっ』
語るに落ちたな。
俺は青白い人たちを飛び越えて、ズバシューと斬りにかかる。
「せいやああああ!」
『うぎゃあああああああ! く、くそう……恐怖演出モリモリの段取りがちゃんとあったのに……。段取りがあったのに……。段取り……ちゃんと段取りさえ……』
そうして、ヴィゼオールは段取り段取りと言いながら消えていった。
周りの青白い人たちは奴が消滅すると「うーあー」とうめきながら、それぞれの家に戻って行く。
奴の支配から脱したのか?
と、ハミィが噛まれた箇所をさすりながら歩みよってきた。
「先輩。けっきょく、あの人たちは何者なのかしら……?」
「わからない。ゾンビじゃないのはたしかみたいだが……」
「そうね。ゾンビじゃないのはたしかだわ……」
ゾンビ以外の何者かはたしかだった。
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