第24話 ただの門番、バニー村の因習に気づく①

 ご機嫌なメメナに先導されるがまま、農村までやってくる。

 モンスター被害が少ないのか村のまわりに柵はなく、牧歌的でのんびりとした村だった。


 ただ、一点をのぞいては。


 あっちにはバニースーツを着た女の子。

 こっちにもバニースーツを着た女の子。


 うさ耳ヘアバンドを頭につけて、肩だしボディスーツを着ている。ストッキング(または網タイツ)はどこからどう見てもバニースーツ。


 女の子だけじゃない。

 淑女から少女、お婆さんにいたるまで全員バニースーツだ。

 さすがに男は頭にうさ耳ヘアバンドのみだが。


 そんなバニーだらけの村に、メメナが瞳をキラキラと輝かせていた。


「えっちな村じゃー!」


 メメナの声が村にひびき、バニーな村人たちが俺たちを見つめる。


「ちょ! メメナ、声が大きいって!」

「兄様! 噂どおりバニースーツを着た子がいっぱいおるぞ! 可愛らしいのう!」


 いつもは落ち着いているメメナが大興奮だ。

 どうしても訪ねたかった村らしいが、すさまじい村だな……。


 すると、バニーなお姉さんが話しかけてくる。


「ふふっ、子供は正直ね。冒険者さんかしら? 驚きますよね」


 俺は気恥ずかしさを感じながら答えた。


「す、すいません、いつもは落ち着いた子なんですが……。す、すごい村ですね……」

「ここはバニー村。バニースーツの名産地ですから」


 バニー村。かなりまんまな村の名だ。

 メメナから少し教わったが、バニースーツの名産地らしい。


 古代文明から好事家にずっと親しまれるバニースーツ。だがバニースーツだと馬鹿にすることなかれ裕庶正しき歴史がある。


 大昔の勇者パーティーに、バニースーツを着た遊び人がいたのだ。

 のちに彼女は聖女として覚醒するのだが、それまではバニースーツで戦っていた。


 ただのバニースーツで厳しい戦いを生きのこれるはずがない。もしかして副次的効果があるのではと学者が研究して、術を行使するにはなかなか最適な服だと判明する。


 今も高級バニースーツは、冒険界隈でも上級装備として重宝される。

 華やかな場で警護がバニースーツを着るのも防犯を意識したゆえだ。


 ただヴィジュアルが人を選びすぎるので、いろんな意味で手が出しづらいのだが。


 ここはそのバニースーツの名産地。

 バニースーツ職人がいる村でもあった。


 バニースーツのお姉さんは、村の特産品を自信満々に着こなしていた。


「冒険者さん。でもさすがに、普段は村人全員が来ているわけじゃないんですよ?」

「そうなんですか?」

「いつもは三割ほど」

「三割は着ているんだ……」

「今は、もうすぐバニー祭りですから」


 バニースーツを着た村人ばかりのバニー村のバニー祭り。


 情報で頭が溶けそうだが、メメナがわくわくした表情でたずねた。


「バニー祭りとはいったいなんじゃっ?」


 メメナの待っていましたと言わんばかりの笑み。


 さては祭りについて知っていたな?

 普段はとても頼りになる子だが、面白そうだと思ったら黙る……あるいは裏から手を回してくる悪戯好きであるのも知っていた。


「バニー祭り……。それは、ヴァニー様を讃える祭りです」


 バニースーツのお姉さんは、村の歴史について丁寧に語ってくれた。


 大昔、この地は魔王配下である邪王に支配されていたのだとか。

 邪王の眷属であるモンスターはどれも凶悪で、生半可の冒険者じゃ太刀打ちできない。人間はただただ恐怖にふるえるしかなかった。


 そんなとき人間を助けてくれたのが、とあるモンスターだった。

 紅き瞳、滑らかな鱗、二つの耳。ヴァニー様だ。


 邪王の眷属だったヴァニー様は人間を好きになり、邪王に反旗をひるがす。自分の姿によく似た『伝説のバニースーツ』を人間に与えて、共に戦ってくれた。


 そうして邪王をしりぞけるもヴァニー様は深く傷ついてしまう。

 地中深くで眠りにつき、入り口ごと自らを封印したそうな。


 ここはヴァニー様が見守ってくれている村でもある、と話してくれた。


「――そんな伝承が。バニー祭りは裕庶正しき祭りなんですね」


 ちゃらんぽらんな祭りかと思っていた。


 人間と魔物。共に手をとりあう光景は俺もこの目で見たかったな。


 と、スルが両手で顔をおおうように隠していた。

 なにその反応。……どういう感情?


「そうだ! 冒険者さん! バニー祭りに参加してみませんかっ?」

「……俺たちが参加して大丈夫なんです?」

「村長とお話ししていただくことになりますが……きっと村長も喜びますよ! 外のお客さんが多いほうが盛りあがりますし、どうでしょう?」


 バニースーツのお姉さんは純粋な好意で言っているようだ。

 うーん……バニースーツだらけの村と聞いたときは『怪しいしかない!』と思ったが、ちゃんと話を聞くとちょっと変わった風習なだけだよな。


 わざわざ留まり、村を調査するほどではないと思うが……。


「兄様ー。調査のためにも参加するべきじゃよ」

「……最初からそれ狙いだったな?」

「ええじゃろええじゃろー。楽しそうな祭りは参加するべきじゃよー」


 メメナは笑顔のまま、ちょっと戸惑っているサクラノとハミィの手を離そうとしない。逃がす気はなさそうだな。


 まあ、いつも大変な冒険ばかりってのもな。


「じゃあ、村長さんのところに行ってみようか」

「さすが兄様じゃ!」


 メメナはわーいと嬉しそうにし、バニースーツのお姉さんに道を聞いていた。

 俺が苦笑していると、村人たちが神妙な顔つきで話しているのを見かける。


「噂は本当なのか……?」

「封印が解ける時期だとか……村長はなんと……?」

「復活するともなれば……」


 なんだ? お祭り前だってのに剣呑な雰囲気だな。


 ちゃんと開催できるかでピリピリしているのかな。祭りの準備は神経を使うからなあ。俺も王都で手伝っていたしわかるが。


 と、バニースーツ姿のどこか陰のある少女が俺の前を横ぎっていく。

 少女はうさ耳をゆらしながらぴょんぴょんと跳ねていた。


「ぴょんぴょんしゃん♪ ぴょんぴょんしゃん♪」


 陰のある少女がわらべ歌を歌いだす。


「兎の村で飛び跳ねる。皆が尻を突きだし飛び跳ねる♪

 兎の目はどうして紅い。どうして耳が二つある♪

 ぴょんしゃんぴょんしゃん♪

 可愛い可愛い兎様。いとしやいとしや兎様♪

 ヴァニーバニーバニースーツ。魅惑蠱惑のバニースーツ♪

 皮をなぞったバニースーツ。逆さなぞれば、ああっ怖い♪

 逆さ逆さ、逆さは怖い♪

 逆さバニーは恐ろしや♪」


 逆さバニー?

 なんだそれはと訝しんでいると、バニースーツを着たお母さんが少女の手をつかむ。


「逆さ歌で遊ぶんじゃありません! ……連れて行かれるわよ!」


 そう言って、女の子を引っぱって行った。


 ――俺はそのとき、村にただよう因習の気配をうっすらと感じていた。

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