第9話 ただの門番、エリアボスを倒したことにまだ気づかない

 禁忌の洞窟。


 数百年前、勇者が魔王との最終決戦におもむく際、使ったとされる洞窟だとか。

 洞窟の最奥は魔に繋がっているとされていて、ボロロ村の住人が立ち入ることは許されていないらしい。


 俺とサクラノは茂みに隠れながら、洞窟の入り口を見張っていた。

 洞窟入り口は草木が生い茂っていてよくわからないが、竜を象ったレリーフらしきものがうっすらと見える。


 もしや自然の洞窟ではなくて、ダンジョンか?


 大昔の勇者が地上に蔓延るモンスターを避けるため、利用した洞窟なのかと思ったが、単純に内部が魔王城にでも繋がっていたのかもしれない。


 なにがあるかわからない。

 いっそう気を引き締めなければ。

 しかし緊張で喉が渇くな……。

 一休みしたいところだが。


「サクラノ」


 俺は隣にいた彼女に声をかけた。


 ちなみに、手はとっくに離している。

 サクラノの瞳が黒に戻ったので、落ち着いたと思ったから離していた。

 手を離すときに寂しそうな表情をされたが。


 なんだかんだでまだ子供らしい。


「師匠、蜘蛛が飛びだしてきませんね」

「ああ、心の準備はできているか?」


 サクラノはゆっくりとうなずく。


「はい、皆殺しにまいりましょう」

「待て待て待て」


 彼女の瞳がうっすら赤くになりかけていたので、俺は待ったをかけた。


「どうしましたか? 師匠」

「……サクラノ、俺たちの目的は?」

「鏖殺です」

「……みんなのために、時間を稼ぐのが俺たちの役目だ。

 エンシェントタランチュラへの奇襲は、時間を捻出するための手段の一つだぞ」

「つまり……一匹ずつ時間をかけ、いたぶって殺すと?」


 どうして感心した瞳で見つめてくるのか。

 鏖殺だなんて言葉、あんなに滑らかに言える人、俺初めてだぞ。


「そりゃあ倒すことができればいいが、あくまで理想であって目的じゃない。

 もし奇襲が失敗とわかれば――」

「そこで皆殺しなのですね!」

「……皆殺しできる力量があるなら、そもそも奇襲はしないから」


 頭に殲滅戦以外にないのか。

 今だってサクラのは刀をちゃきちゃき抜き差しして、蜘蛛を斬りたがっている。

 怯えないのはいいが、好戦的すぎなのもいかがなものだ。


「奇襲が失敗とわかれば囮になる。おっけー?」

「わかりました! お任せください!」


 と、サクラノは自信満々だ。


 本当に大丈夫なのだろうか。

 全員道連れにする感じの囮になる気ではないのか。


 疑わしいが、ここでマゴマゴしている暇もない。


「……信じているぞ」

「はい、信じてくださいませ!」


 サクラノ笑顔を信じて、俺たちは洞窟内に向かう。


 洞窟は、やはり元ダンジョンのようだった。


 内部は滑らかな石壁の通路がつづいていて、蜘蛛の巣がいたるところにあったり、コケが生い茂っていたりするが人工物だ。


 俺は一歩一歩、警戒しながら奥に進んでいく。


 サクラノもさすがに大人しい……。

 いや、目がうっすら赤く光っているな。

 いざとなれば俺が退路を確保して、彼女を守ろう。


 そう腹をくくりながらドンドン進んでいき、そして、大きな広間にでた。


 広間は天井が崩壊しているようで、月明かりがこぼれている。

 俺はサクラノに指で合図を送り、影に隠れて様子をうかがった。


 なぜなら、黄金の蜘蛛が、広間中央でたたずんでいたからだ。


 全長1メートルほどか。

 今まで俺たちに襲いかかってきた蜘蛛と大差がないが、雰囲気がちがう。

 神々しさすら感じられるこの蜘蛛こそが、エンシェントタランチュラなのだと、俺は理解した。


 奇襲の隙をうかがう俺たちだったが。

 その前に、奴に先手を打たれてしまう。


「――私たちは争うつもりはありません。

 どうか、私の話を聞いていただけませんか?」


 黄金の蜘蛛は人語をかいした。

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