第48話 ただの門番、魔王城みたいな下水道を攻略する

 久々にやってきた王都の下水道。

 ダンジョン化は本当のようで、内部はすっかり様変わりしていた。


 通路は複雑に入れ組み、壁面には青紫色の炎が燭台に灯っている。中央で流れていた下水がほとんどなくなっていて、赤絨毯が敷かれた通路ばかりだ。


 なんか広間や鍵付き扉も増えているし……。

 なんというか、全体的におどろおどろしい。


 まるで魔王城みたいだ。

 いや実際の魔王城はどんなものかしらないし、それっぽい雰囲気だとしかわからないが。


 それに、出てくるモンスターもちょっと種類が増えたな。


 大広間。

 天井に届くほどの大トカゲが俺たちに向かって、炎を吐いてきた。


「狡噛流! 無噛み!」


 俺たちに迫った火炎にサクラノは臆することなく、斬り刻む。

 無形の炎は、まるで綿が斬り刻まれたかのように細切れになる。


 火の粉が舞い、サクラノはカタナを正道に構えながら叫んだ。


「師匠! あれがドラゴンなのですね!」

「あれは大トカゲだ! 下水道にドラゴンなんていないよ!」


 というわけで、俺はズババーと黒銀の剣をふるう。


 大トカゲはグギャアアアーと大袈裟にもドラゴンっぽい断末魔をあげた。

 火炎袋ごと断たれたようで、大トカゲは全身炎に包まれながら灰となっていく。


「……師匠ー、トカゲは炎を吐かないと思うのですがー」


 サクラノはちょっと物言いたげに俺を見つめてきた。


「王都の下水道に住むトカゲは、炎どころか電撃を放つぞ?」

「師匠、それは、本当にトカゲなのでしょうか」

「はっはっは、トカゲも多様性の時代なんだぞ。炎や電撃ぐらいがなにさ」

「……師匠がそう言うのならそうなのでしょうね」


 サクラノは歯にものが挟まった言い方をした。

 彼女の故郷では、炎や電撃を吐くトカゲは珍しいのかも。


 とまあ、そんな風にモンスターを倒しながら、下水道の攻略は進む。


 今度は魔方陣だらけの大広間。


 そこには、ぷかぷかと青白い光が浮かんでいた。

 奴らは様々な魔術を放ち、俺たちに攻撃をしかけてくる。


光陰破断アローブレイク!」


 メメナが魔導弓で一発一発渾身の矢を穿ち、ぷかぷか浮かんでいる青白いモンスターを次々に爆ぜさせた。


「兄様! こやつら精霊じゃな!」

「え? 精霊って人を襲ったりするのか?」

「……悪戯で命を奪おうとするモノもおる!

 自然元素が魔素と混ざって生まれた存在じゃからのう、命の概念がよくわからないんじゃ!」


 知らなかった。 

 今までそうと知らずに倒した精霊もいたのかな。


「ま、天災のようなものじゃし、気軽にバシバシ倒してええぞ♪」


 メメナはまるで精霊に恨みがあるかのように射抜いていった。


「よおおおし!」


 そーゆーわけで俺も気軽にドゴゴンドゴゴンッと精霊を破裂させていった。


 うん。めっちゃ順調だな。

 一人で狩っていたときと全然効率が違う。

 パーティーっていいなあとしみじみ思う。


 お次は、歯車だらけの広間だ。


 巨大な歯車がかみ合いながらゆっくりと動いている。

 さすが王都の下水道。部屋の種類もバリエーション豊富。

 ダンジョンというか、もう一種のアトラクションだな。


 この広間では、数十体のゴーレムが襲いかかってきた。


 以前、ダビン共和国で俺たちが戦ったゴーレムによく似ている。

 アレよりずっと小型だし、飛ばしてくるツボミのような武器も数は少ないが。


「せ、先輩……! あれってまさか、古代ゴーレム……⁉」


 ハミィがおっかなびっくり叫んだ。


「いや、あれは試作用ゴーレムだ!」

「そ、そうなの……? レーザー攻撃してくるのだけど……?」

「だって小さいだろう! 小さいなら試作用だよ!」


 俺は以前戦った巨大ゴーレムと比較しながら言った。


「小さかったら試作用なの?????」

「ああ! ハミィの魔術なら問題なく倒せるゴーレムだよ!」

「⁉ ……よ、よーしっ」


 ハミィは両拳を握りしめ、迫りくるゴーレムに貫き手をはなつ。


捻拳スピンブロー!」


 ハミィの捻りをくわえた貫き手により、ゴーレムは胴体を貫かれる。ゴーレムはその場でぐるんぐるんと回転したあとで機能停止した。


 すっげー力技。

 それでいて魔術だと思いこんでいるとは、色んな意味ですごい子だなあ。


「その調子だ! ハミィ!」


 彼女の思いこみが強さの源泉なので、俺たちは勘違いを訂正しなかった。

 本人が実力を発揮できるなら、それでいいのだ。


 というわけで俺はゴーレムを剣でぶっ叩きまくって、全滅させておいた。

 いやあしかし。


「黒銀の剣! めっちゃ強いなあ!」


 俺は黒銀の剣を掲げた。


 やっすい配給ロングソードと違って、切れ味が良い。雑に叩いてもボキリと折れる気配がない。下水道のモンスターはちょっと種類が増えているようだが、この剣があれば楽々お掃除ができそうだ。


 俺が黒銀の剣に惚れ惚れしていると、三人娘は集まってヒソヒソ話をしていた。


「師匠の剣、そういえばずっと配給のオンボロソードでしたね」

「ううむ、それで問題なかった兄様はすごいな……」

「な、なんだか、先輩の剣筋いつもより鋭さを増してない……?」

「おそらく、思いこみじゃろうな。良い武器を得たことで強さを多少なりとも自覚して、実力が引きだされたのじゃろう」

「す、すごい……。お、思いこみで強くなるなんて……さすが先輩だわ……!」

「ハミィがそれを言いますか」


 なんの話だろう。

 下水道、思ったよりモンスター湧きすぎとか?

 もう500体は狩ったもんなあ。

 だから王都の下水道はこまめに掃除しておいてと頼んだのに……。


 ぶーたれても仕方ない。

 晩ご飯前には帰りたいし、先に進もう。


 そーやって、俺たちは王都の下水道をどんどん攻略していった。


 一人で狩っていたときと違い、ハイペース。

 俺と三人の力が合わされば、まあ下水道掃除ぐらい余裕だろう。


 ただ三人はさすがに息切れしてきたようで肩で息をしはじめる。

 彼女たちのペースに合わせるために小休止を挟みつつ、ゆるやかーかにダンジョン攻略が進む。


「ゼィ……ゼィ……。師匠ー、内部は広いし、モンスターもかなりいますねー……」


 珍しく疲れていたサクラノが、カチリと床の罠を踏む。

 バカリと床がひらいた。落とし穴だ。


「きゃっ!」


 俺は急いでサクラノをお姫さま抱っこして、空中でぐっと踏んばった。


「大丈夫か、サクラノ?」

「は、はい……油断しました。ありがとうございます」

「落とし穴でぐっと踏んばって、空中で停止できるようにならないとな」

「……それは一生かかっても無理ですよ、師匠」


 サクラノが頬を染め、困ったように微笑んだ。

 そんな風に可愛いサクラノにドキドキしたりと、甘い空気に浸りながらもダンジョン攻略は進む。


「せ、先輩すごい……! 空を飛ぶ魔術、ハミィ初めてみた!」

「うーむ。兄様がおれば危機感ゼロになるのう」


 俺たちの快進撃はつづく。


 ズドーン、バカーン、ズギュギュギューン。

 ズバシュ、ボボガーン。

 ホッペラボペスー。ハニャラベパー。

 まいうー。


 とモンスターを軽快にぶっ倒したり、午後のおやつを食べたりしつつ、下水道最奥にわりとさっくり辿り着いた。


「ここが最奥か……?」


 王都の下水道最奥。

 一番大きな広間だが、いたるところに骸骨の燭台が灯されている。

 中央には巨大な魔方陣が描かれていて、怪しい儀式場みたいだ。


 それに、シリアスな空気が漂っている。


「……なにか、いる」


 俺はさっきまでの快調な攻略っぷりを頭から追いだして、周囲を警戒する。


 濃い気配を辿ってきたはずなのに、ダンジョンコアどころかなにもいない。

 不気味な儀式の跡に、俺たちは神経を張り巡らせていると、頭の奥に直接響くような重々しい声がした。


『――ほう。我の元に辿り着く者がこの時代でもおるか』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る