第26話 ただの門番、爆乳メカクレ低身長牛柄ビキニの保安官獣人に出会う

「そ、そこまでよ。あ、争うなら……み、みんな今すぐ街から出て行って……」


 マント姿の女獣人だ。

 マントを羽織った彼女は、なぜか――牛柄ビキニを着ていた。


 頭には牛の角。そして牛の耳。

 前髪で半分目が隠れていて、低身長だがかなりグラマラスな体系だ。


 ってーかデカい。

 獣人は基本デカイが、胸がボボボボーンといった感じだ。


 彼女は不安そうな表情で、酒場の入り口に立っている。


兄様あにさま、あの子……」


 メメナも驚いている。


 そりゃあ驚くだろう。

 なにせ牛柄ビキニだ。


 街中で牛柄ビキニ。

 いやほんとなんで牛柄ビキニ?


 布面積がほとんどないから、ちょっと肉がはみだしているし。

 微妙に恥ずかしいのかマントを羽織っているが、そのせいで余計爆乳が強調されているんじゃないかと思えなくもない。


 メカクレ。低身長。爆乳。牛柄ビキニの牛獣人……。

 ……武装しすぎじゃないか?


 しかし、兵士長の『兵士は装備が増えれば鈍重になって逆に弱くなることもあるが、こと性癖に関してはちがう。増えれば増えた分だけ、強くなる』発言を思い出す。


 兵士長。

 貴方の言葉が今、心で理解できました……。


「兄様。あの子、保安官のようじゃの」

「えっ? あっ、そうなの?」

「……マントにバッチがついておるが?

 ワシの間違いでなければだが、あれは保安官を示すものじゃ」


 メメナに疑わしそうに見つめられ、俺はコホンと咳払いした。


 サクラノも保安官の登場に、状況を見守ることにしたようだ。

 俺たちにそっけなかった猫耳の男が、頭をガシガシ掻く。


「ハミィ。オレたちは暴れる気はねーよ……」

「ほ、ほんとに……?」

「ああ、仲間に聞いてみろ」


 ハミィと呼ばれた子は、酒場をぐるりと見渡す。

 他のテーブル席の獣人たちは、うんうんと誤魔化すようにうなずいている。


「ほ、ほんとうに暴れる気はないのよね……?」

「ホントホント」

「ホントのホントよね……?

 ハ、ハミィがいなくなったあとで、いきなり暴れだしたり、『へへっ……あのザコ保安官。ほんとちょろい。胸ばかりがご立派で、頭はカスカスのカスだぜ』とか……お、思わないよね?」

「お、おう。

 ……ハミィを悪く思う奴なんて誰もいねーから、そこまでネガらなくても」


 ハミィはそれでも自信なさそうにしていた。


 なんか思いこみが強そうな子だな……。

 ネガティブな方面にだが。


 ......なんだか妙に親近感を覚えるな?

 なぜだ。


「それで……あ、貴方たちは誰なの…………?」


 ハミィは俺たちをおっかなびっくり見つめてきた。


 どこか頼りない。本当に保安官なのか。

 俺はサクラノを離して、彼女に答える。


「俺たちは旅人だ。道に迷って、この町にやってきた。

 …………移動手段を貸してくれると嬉しいんだが」


 地中を潜るダンジョンについて話そうとしたが、あのゴーレムについて話すことになるので俺は控えた。サクラノもメメナも俺に合わせてくれるようで、黙っていてくれた。


 ハミィはじろりと俺を見つめる。


「旅人……? へ、兵士みたいな恰好をしているけど……?」

「元王都の兵士なんだ」

「…………ホントにホント?」

「ホントにホント」

「怪しい……いかにもモブっぽい雰囲気とか、な、なんだか逆に怪しいわ……。

 ま、まさか……胸ばかりで頭のたりない乳だけ保安官がいる町を調査しにきた、スパイや人さらいじゃ……?」


 職務上疑い深いのか、思いこみが強いのかわからんな……。


 と、ハミィが俺のもとまで歩んでくる。

 俺の前で立ち止まると、その爆乳がバルンバルンと上下に揺れた。


「あ、貴方。ハ、ハミィの目を見て、同じことを言える……?」

「あ、ああ……」


 無理だ。

 俺はもっと年上、具体的には熟女が好きなのだが。

 やはり爆乳には抗えないようで、どうしても視線が釣られてしまう。


 不審に思ったハミィが腕組みするから、余計に爆乳が目立った。


「目を逸らした……。あ、あやしい……あやしいわ……」

「い、いや……ホント、ちょと理由があって……」

「やましいことがないなら……ハ、ハミィの目をみてしゃべれるはずよ……?」


 やましいことがあるので目を見て、しゃべれません!


 そう言いたいが言えるわけがない。

 俺が爆乳に釘付けになっていると、サクラノが叫んだ。


「師匠! さすがに胸を見すぎです!」


 サクラノがぷんぷん怒り、ハミィが顔を真っ赤にして胸を隠した。


「ひゃっわあ⁉⁉⁉」


 いかん!

 気づかれた!

 言い訳したいが言い訳できん!


 俺があわあわしていると、メメナが妖しく微笑む。


「兄様にはー、小さな女の子の良さも、もーっと知って欲しいのじゃがなー♪」


 ハミィの目つきが、思いっきり不審者を見るものになる。


「ち、ち、小さな女の子と! ナニをしているの……⁉」

「ち、ちが……!」

「そ、それに初対面のハミィの胸をガン見って……!

 あな、あなた、変質者ね! そうにちがいないわ……! 絶対そう! 

 胸だけ女のハミィを誘拐しにきたんでしょ……⁉

 ハ、ハミィの角を掴みながら、後ろからあんなことや、前からこんなことを……!」


 妄想たくましすぎないか⁉


 迫り寄る爆乳に、俺は観念する。


「だ、だって……君!

 そんな限界ビキニ姿、誰だって見てしまうって……!」


 ハミィはさらに顔を真っ赤にして、固まっていた。


「こ、これは保安官の制服なの……!」

「え……なんで?」


 俺がちょっと真面目にたずねると、ハミィは恥ずかしそうに唇をふるわせた。

 もしや、本人の意思で着ているわけじゃないのか?


「――表に出て……! け、決闘よ……!」

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