第22話 ただの門番、女子会には参加せず

 門番たちがビビットの森を旅立つ、ほんの少し前のこと。


 サクラノとメメナは、二人で女子会をひらいた。


 もっともサクラノは女子会なるものをよくわかっていない。

 お茶しながらおしゃべりするものと伺い、これから仲間になるメメナのツリーハウスにお呼ばれになった。


 サクラノはメメナとテーブルで対座しながら、甘いお茶を呑みつつ、話し終える。


「――で、ありますね。メメナ」


 ちなみにメメナと呼び捨て(本人の希望どおり)だが、基本敬語だ。


 メメナは嫌がったのだが、年配の実力者にはどーにも敬語で接してしまう。縦社会根性がサクラノには染みついていた。


 彼女は師匠とちがい、メメナが年上の女性であるとちゃんと認識していた。

 メメナの実年齢は『秘密じゃよー♪』と言われて、教えてくれなかったが。


「ふむ。サクラノたちが森で出会った、青白い男な」

「はい」

「精霊王ブルービット様じゃな」


 やっぱり。

 さすがのサクラノも息が止まりそうになった。


「あの……。精霊王は師匠が倒してしまったわけですが……なにか、罰とか……」


 サクラノはおそるおそる聞いた。


 場合によっては厳しい処罰があるかもしれないなと、彼女はそれが不服だと暴れる気はなかった。

 一度身内判定すると、まあまあ大人しくなる子だった。


「はっはっは、ええんじゃええんじゃ」

「ほへ?」


 ケタケタ笑うメメナに、サクラノの目が点になる。


「あの精霊なー、傲慢じゃし、ひねくれ者じゃし。

 正直ワシめっちゃ嫌っておった。

 そのくせ、めちゃくちゃ強いわで……厄介もいいところじゃったしな。倒してくれて清々したわ」

「エルフたちにもそう伝えるのですか?」

「いや、精霊王はこのままいなくなったことにしよう。面倒じゃし」


 メメナはスッキリサッパリした表情で、焼き菓子を食べた。


 反応からして、精霊王を相当嫌っていたようだ。

 それでもみんなのために犠牲になろうとしたメメナは立派な人なのだと、サクラノは尊敬度がぐーいんとアップした。


「ふふっ、精霊王まで倒すとは……あの男、強さの底がみえんのう」


 師匠が褒められ、サクラノは笑顔になる。


「そうなのです! 師匠は最強なのです!」

「うむうむ。しかしあやつ、己の強さを自覚しておらんな」

「…………やっぱり、そうですか?」


 サクラノもうすうす気づきはじめていた。


「最初は謙虚な人だなーと思っていたのですが、どうにも微妙に話がかみ合わなくて。

 師匠、天然だし」

「思いこみは強そうじゃよな。

 ワシのこと、まだ幼子だと信じきっているようだし」


 メメナは楽しそうに微笑んだ。


「でしたら! 今から師匠に『あなたは強い!』と教えて、みんなにもっと凄さを知ってもらいましょう!」

「そうじゃなー。あれだけの強さ、さぞ注目を集めるじゃろうな」

「ええっ、ええっ! わたしの国に来れば、一国一城の主も夢ではありません!」


 そして師匠は殿様へ。

 そうして最強の男を支える、懐刀な自分。


 素敵だ。

 最高だ。

 素晴らしい未来絵図だ。


 そうニコニコしていたサクラノに、メメナが告げる。


「まあ、とはいかなくなるのー」

「え…………?」

「そりゃそうじゃろう。あれほどの強さ、誰もほうってはおかぬ。

 サクラノただ一人の師匠とはいかなくなろうて」

「……………師匠にはまだ黙っておきます」


 独占欲丸出しのサクラノに、メメナはくすくすと笑った。


「そのほうがよかろう」


 メメナの瞳は面白そうだしな、とも語っていた。

 なかなかに食わせ者だなとサクラノは思う。


「……あのぅ。メメナは、師匠のことをどう思っておるのですか?」

「どう?」

「慕っているとか、尊敬しているとか、す、す、好……気に入っているとか」


 サクラノは背中を丸めて、もじもじした。


「んー、そうじゃなー」


 メメナは猫っぽく笑い、なぜかお腹を優しくさすりはじめる。

 まるで、母親がお腹のなかの赤ん坊を慈しむように。


「人間ではない者は『ヒトの子など孕みたくない』と言うのが、お決まりらしいが」

「はい……?」

「ヒトの子を孕んでみるのも一興よの」


 大人な態度を見せつけながら、メメナは妖艶に微笑んだ。


 サクラノの顔が真っ赤になる。

 武人な彼女には、ただでさえ色恋話はきびしいのに、ダイレクトな性的話はあまりに刺激が強すぎた。


「あう~~~~~~」

「はっはっは、可愛い奴よの。これからよろしくの、サクラノ♪」


 そう言ってメメナは、焼き菓子を美味しそうにほおばった。


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