第3話 ヨショリ侯爵

 ヨショリ侯爵が使用人の首に剣を突き付けた。


「ひぃ、お、お許しを…………」

 使用人は腰を抜かして後退る。


「俺がレンに渡すはずだった生活費は何処に消えた。嘘はつくなよ。調べれば直ぐに分かるぞ」

 侯爵は威圧して使用人を睨む。


「そ、それは…………」

 使用人は次男を見た。


(喋ったら只じゃおかねえぞ)

 次男は鬼の形相で使用人を睨んでいた。


「成程な。そういう事か」

 侯爵は使用人の目線を追って、目を細めて次男を見た。


「くっ」

 次男は苦々しい顔をして、侯爵から顔を背ける。


「いつからだ?」


 侯爵の言葉に使用人は助けを求める様に次男を見るが、次男は素知らぬ顔をした。


「いつからだ?」

 侯爵は剣先を使用人の首に少し刺した。


「ひぃ」

 使用人は後退りながら重い口を開いた。


「は、初めからで御座います………」

 使用人は観念して白状する。


「ほう、そうするとレンの母子には今まで一銭も与えて無かったと言う事か。………まさか、他の庶子からも生活費をくすねていた訳ではないだろうな」


「それは………」

 使用人は目を閉じて考えた。


(次男はもう自分を助ける事はないだろう。それは、ついさっき、自分を殺そうとした事でも分かる)


「………他の庶子の生活費も殿下の元に集まっています」


「アキツナ! 貴様は廃嫡とする。暫く謹慎だ。着服した額になる迄金は一銭も渡さんからそのつもりでいろ」

 侯爵が次男に告げる。


「な、な、なんで………、使用人が嘘をついているに決まっているではないですか! それに母が、母の実家だって黙っていませんよ」


「俺は発言を許可してないぞ」


 ドカッ!


 侯爵は剣の腹で次男を叩き飛ばした。


「これ程馬鹿だとは思ってなかったぞ。俺が何のために妾を囲って庶子の生活の面倒を見てると思ってるんだ。貴様のせいで台無しだ」


「くっ」

 倒れて侯爵を見上げる次男。


「ああ、それから貴様が物心がつく前からこんな事が行われていたらしいから、貴様の母は着服した罪で処刑する。実家もグルか? 詰問状を送って戦だな。滅ぼしてくれよう」


 侯爵の側室サヨの実家は公爵家で、王家の親族なのだが、落ちぶれた公爵家など侯爵にとっては屁でもない。


「えっ、………」


「ジョセフ、逃げ出す前にサヨを捕まえて牢に入れておけ」


 侯爵は側室を捕まえるよう執事に告げると、執事は執務室を後にした。


 侯爵は次男を見ながら、懐から巾着袋を取り出すとレンに投げた。


「レン、辺境の開拓村にはこれで行け。多目に入っているので、少しは役に立つだろう」


「有り難き幸せ」

 レンは巾着袋を受け取ると懐に入れた。


「下がって良いぞ」


 侯爵の言葉にレンは睨む次男を横目でみながら素早く執務室を出る。


(早くこの都市を出た方がいいな。次男の手の者が追ってくるかもしれない)


 レンは自分の住んでいた離れに戻ると手早く荷物をまとめて屋敷を出て領都をあとにした。

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