第2話 プロローグ2

 レンが首を縊った瞬間、過去の記憶が走馬灯のように蘇った。


 思い出したくもないイジメられた記憶。唯一の温かな生前の母との思いでと温もり。


 過去の記憶を遡っていくと突然また首を縊る過去が蘇った。今度は電源タップの延長コードで首を縊るシーンだ。


 そして、レンは転生前の記憶を取り戻した。首に掛かった縄が切れて床に落ちる。


「ゴホッ、ゴホッ………。俺は転生していたのか………。ははは、転生後もイジメられて首を縊るとは………。全くクソみたいな話だ………」


 レンが両手を床についてノロノロと立ち上がろうとした時、扉を勢い良く開けて使用人が入ってきた。


「侯爵様がお呼びだ。直ぐに執務室に来い!」

 有無を言わさず大声で告げる。


(ノックも無しかよ………)

 ヨロヨロと使用人の方に進むレン。


「なにモタモタしてる。サッサとしろ!」


(いつか、みてろよ………)

 襟首を捕まれて連れて行かれるレンは、恨めしげにする事しか出来なかった。


 レンは使用人に侯爵の執務室に連れて来られた。執務室に居たのは侯爵と嫡男、次男、執事の四人。


 使用人はレンを侯爵の前に押し出す。

「侯爵様、連れて来ました」


 レンはよろけて倒れたが、素早く跪きなんとか体裁を整えた。


「随分荒っぽく連れて来たな。まあ、良い。レンには辺境の開拓村を任せる事にした。そこから這い上がって来い」


「有難う御座います。はい。過分のお気遣い感謝申し上げます」


 侯爵の言葉に跪いた姿勢で返答するレン。侯爵の命令に否は無いのだ。やれと言われればやるしかない。反論は許されない。


 侯爵はレンにとって父ではあるが、滅多に顔を合わせる事もなく、父親らしい事をされた事もない。そのため、父と言うより主に近い存在だ。


 侯爵は執事に開拓村を任せる為の書類を渡し、執事がレンに書類を渡す。


 レンはその書類をザッとみた後、侯爵を見た。


「侯爵様、発言しても良いでしょうか」

 レンは続けて侯爵に会話の許可を願う。


「ん、良いぞ。苦しゅうない、申してみよ」


 侯爵の許可に嫡男と次男は訝しげにレンを見る。


「有り難き幸せ。………実は辺境の村に行く為の金子きんすがありませぬ。せめて辺境の村に行ける程度の金子をいただけないでしょうか?」


(金も無いのにどうやって村に行くんだよ。それで辺境の村を任せるなんて、無理ゲーじゃないか)


「どういう事だ。毎月少なく無い金子を生活費として渡しているはずだが、全く残っていないのか」

 侯爵は眉を顰めてレンを見る。


「ちっ」

 聞こえないように舌打ちする次男。


「今まで、一銭足りとも生活費を受け取った事はありませぬ」


 レンの声を遮るように突然大声を出す使用人。


「嘘だ! どうせ遊興に──」


「黙れ! 貴様が話す許可は出してないぞ!」

 使用人より大声で叫んだ侯爵は使用人を睨む。


「ひぃ………」

 使用人は侯爵の迫力に狼狽える。


「父上に不敬である」

 しめた!っという顔で、抜剣し使用人を斬ろうとする次男。


 カキン!


「貴様も無礼であろう。父上の執務室を血で汚すのか」


 次男の剣を抜剣した剣で受け止める嫡男。


「くっ!」

 顔を顰めた次男は仕方ない様子で剣を納めた。


「お前達! 下がっておれ!」

 侯爵が執務室の机に片手をつき、ジャンプして飛び越えると、いつの間にか抜剣していて剣先を使用人の首に当てて言った。


「詳しく話せ、嘘は許さん」

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