第58話 開拓村の発展
半年で開拓村のコボルトの数が5倍に増えた。300匹のコボルトが1,500匹に増えたのだ。一年経てば10倍以上に増える。
元々多産で知られるコボルトだが、野生では、ゴブリンをはじめとする魔物に狩られたり、獲物を狩る事が出来ず餓死にしたり、病死したりと、生き残る数はそれほど多くない。
しかし、開拓村では能力を開花したコボルトにとって、ゴブリンを初めとする魔物は食糧源であるので、狩られる事も飢える事もなく、病気は快適な住環境と、クリーンの生活魔法による殺菌消毒と、回復薬の効果で激減した事で死亡率は極端に下がっている。
従ってコボルトの数が増える事は必然。
発情期を迎えると、そこかしこで出産ラッシュが始まり、子コボルトがそこら中を走り回る。
そんな光景が開拓村では日常の風景となっていた。
とは言っても、このままコボルトの数が増え続ければ、食糧が不足する事は明白。
指を咥えて見ているだけとはいかないので、対策を練る必要があり、その政策で重要になるのが農業と酪農だ。
食糧となる穀物と野菜や果実、肉と乳製品を自分達で賄うのだ。
野生のコボルトはその1日の大半が食糧を探し、狩りをする時間であるが、開拓村のコボルト達は食堂に行けばいつでも食事が出来るので、時間的な余裕がある。
その時間を農業や酪農の仕事に充てる事で食糧を生産し、食糧不足にならないようにしたのだ。
農業や酪農は長時間の重労働できつい汚い危険な上に、臭いし利益もそれほど出ない職種だが、従魔のコボルト達は文句の一つも言わず指示された事は喜々として行う。
しかも人件費ゼロ! 更に人頭税の対象外。
開拓村の商会の会頭であるイアンは、その事に気付くと、開拓村に村民を増やす事より、コボルトの労働力を利用し生産に充てる事で莫大な利益を得る方向に舵を切っていた。
勿論、領主であるレンの了承を得ての話である。レンの元にも莫大な利益が勝手に入ってくる。コボルトの労働力はレンのテイムありきなのだ。
コボルト達が周辺から採取した薬草でコボルト達が作成した原価ゼロに近い回復薬を、深刻な薬草不足で悩む周りの領地に安く売る事で莫大な利益を得て、その利益を元手に酪農や農業に必要な様々なモノを購入する。
また、必要なモノはコボルトが作る。この世界の大工ギルド(建設ギルドと言った方が良いのか?)の対応する範囲は鍛冶ギルドと重なる部分も多い。
元大工ギルドのギルドマスターであるバークが指導したコボルト達は、建屋以外のモノ作りもお手の物だ。自分達で作れるモノは作る。
更に、技術やノウハウを持つ奴隷を購入し、他領でギルドから追い出された技術者を村人にして、コボルトにも技術を学ばせる事で、開拓村に不足する技術や経験不足を解消する。
そして、農業や酪農の結果、開拓村で消費しきれない、人件費が殆どかからないモノを周辺の領に安価で売るという、好循環が確立されていくのであった。
勿論、既得権益を持つ各種ギルドとは、賄賂を始めとして、価格を調整し折り合いを付けて問題になり難いように上手くやる。この辺りは会頭イアンの腕の見せ所である。
その仕組みは、農業と酪農に留まらず他の業種にも当て嵌まる。
なんせ、労働力はあるのだ。そして増える一方なのだ。利用しない手はない。
こうして、開拓村は豊富な資金と労働力を背景に急成長し発展していくのであった。
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