第93話 謁見
翌日、ミノス王国王女リリスはアレス王国国王レンに謁見する事となった。
リリスとその護衛一行は案内されて謁見の間の中に入ると、左右にコボルトと人間の騎士が並ぶ。
アレス王国軍は余程自信があるのか、護衛の帯剣は許されており、それが護衛達にとって尚更身を固くし、警戒心は否が応でも上がっていた。
そんな護衛とは裏腹に辺りをキョロキョロと見て、コボルトチェックに余念が無いリリスを、心の中で頭を抱えて同行する爺や、他近習達。
奥に進むと王国幹部の人とコボルトが居並ぶのが見えた。
(あああ! ツェンとジュリアもいるじゃないの。なに、王国の重鎮の一人だったの)
リリスがジュリアと目を合わせると、ジュリアがリリスにウィンクをする。
なんて思っている横では
(げ、昨日城ですれ違った得も言われぬ雰囲気の片足の戦士もいるよ、横に並ぶコボルト達も威圧感があって強そうだな)
と緊張しながら進む護衛の騎士達。
リリスが一段高い位置で王の椅子に目を向ける。
(きゃあ! なにあの子、シュッとしてるのにモフモフで背筋が伸びて凛々しいじゃない)
リリスはレンの横にいるボルゾイのコボルト・ノインに目を奪われ、レンは目に入っていない。
一方レンは、(はぁ、美人は美人だけど、なんだかポンコツの王女だなぁ)と呆れ顔でリリスを見ていた。
「リリス様、そろそろですよ」
爺やがリリスに声を掛けてリリス一行は跪いた。
(はぁ、いつもは聡明で深謀遠慮なお人なのに、今回は何故こんな事に………)
「俺は国王レンだ。ミノス王国王女リリスよ。そなたは我が国になにを望む」
「モフモフを! 「リリス様!」 じゃなかった。えへ。国交樹立を望みますわ。そして通商条約を」
(モフモフ? なに言ってんだこのポンコツは。国交樹立と通商条約はまあ普通だな)
「ふむ、宜しい。詳細はイアンとカルマンに任せる。ミノス王国との通商条約の締結に向けて交渉してくれ」
「はい。承知しました」
「かしこまりました」
イアンとカルマンが一歩前に出て頭を下げて、返事をする。
「それから、周辺国の安定平和の為にヒダ王国との停戦と国交の樹立も望みま──」
「それは断る。………一方的に我が国に襲撃してきて戦端を開き、都合が悪くなったら直接詫びも入れずに、第三者に丸投げで国交樹立したいなんて虫が良すぎると思わないか? リリス王女」
(確かにそうなんだけど………、まあ、良いか駄目で元々、最優先は情報収集だし)
「そうですね。条件だけでもお聞きしたかったのですが、その様子では無駄な事なのでしょう。取り下げます」
「陛下! 発言良いでしょうか」
ロジーナが一歩前に出て、レンに発言の許可を求める。
「宜しい。ロジーナ申してみよ」
(はぁ、この威厳マシマシの言い回しは慣れないなぁ)
と考えているレン。
(ロジーナ? ………どこかで聞いた事のある名前だわ)
ロジーナの名前を記憶の底から思い出そうとするリリス。
「はい。感謝致します。そもそもヒダ王国はモフモフで可愛いコボルトを襲って、我が国に損害を与えた憎き冒険者ギルドと結託し、陛下を指名手配して裏で冒険者を暗殺者にして差し向けているのにもかかわらず、国交樹立したいなんて我が国をなめているとしか思えません。モフモフの尊厳を守る為に今すぐ駆逐するべきです」
(はぁ、暗殺者はお前だろ)
と呆れ顔のレン。
(冒険者………、ロジーナ! Aランク冒険者ロジーナ。ヒダ王国の冒険者ギルドに在席していたはずだけど………。それよりも、コボルトを襲った? この愛すべきモフモフを! それは私も許せませんねぇ。モフモフは正義よ!)
何故か拳を握り締めて決意を新たにするリリス。
「その話を詳しくお聞かせ願います」
「ん〜、分かった。謁見の後、別室で話そう」
レンはリリス強い眼差しを見て、迫力に圧されて願いを承諾した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます