第92話 偵察

 リリス御一行は王城の客間に案内されて、旅の疲れもあるだろうとの事で、謁見は翌日と言う事となったが………。


「ちょっと、街中を偵察しなければいけませんね」


「はぁ、今日は大人しくしていて下さい」


 と爺やに止められるも、モフモフフリークの行動は止まらず。


 短時間だけとの約束で爺やを説得し、爺やと護衛を従えて、意気揚々と街中に出掛けようとするリリスは、城の中を歩く。


 すれ違うコボルトのメイドと使用人の他にも………、すれ違うアレス王国幹部の人達。


「まあ、あの人は2匹もモフモフを連れているわ」

 ロバートと土佐犬のコボルト・エル、イングリッシュブルドッグのコボルト・ブル。


「きゃあ! 可愛い! 可愛さは一番じゃない?」

 プリシラとポメラニアンのコボルト・ポメ。


「え! くぅ、また可愛い子がいたわ」

 ロジーナとチワワのコボルト。


 エリーとゴールデンレトリーバーのコボルト・ツヴァイ。ダリアとフラットコーテッドレトリバーのフィア。


 ゲイルとシベリアンハスキーのコボルト・フンフ。フェルダーとドーベルマンのコボルト・ドライ。


「なんだかみんなパートナーがいるのね。羨ましい〜!」


「なに、なに。この可愛い子達は……」


 街に出るとちょこちょこ歩くチベタンマスティフの子供達に目を取られて、無意識で後ろをついて行く。


「バフ〜」(家に帰ろうワン)

「バフバフ」(お腹減ったワン)

「バフ!」(肉!ワン)


 着いた先は………。


「いらっしゃい! どんな御用かしら?」


 ジュリアとチベタンマスティフのコボルト・ツェンがいる錬金術士のお店。


「は! ここはどこ?」


「錬金術のお店よ。王女様」


 そう答えたジュリアの後ろには3匹のコボルト。ボーダー・コリーのコボルト、プードルのコボルト、シェットランドシープドッグのコボルトが尻尾を振っていた。


「なぜ私が王女だと分かったの」


「ふふふ、国外からのお客様は初めてなので、街中で噂になっています。一目で分かりましたわ。それで、どんな御用でしょうか」


「いや、御用というか、コボルトの子供があまりにも可愛いのでつい、ついてきてしまったの。貴方の隣りにいる子も、アインスと言うコボルトに勝るとも劣らないぐらいのモフモフで可愛いわね」


「まあ、アインスと会ったのですね。同じぐらいと言われるとツェンの師匠としては、ちょっと気になるところではありますが、王女様の言う事なので我慢します」


「師匠?」


「そうこの子達は錬金術士なのです」


「コボルトが錬金術士! コボルトは錬金術も出来るのですか!」


「あら、知らなかったのですか? この子達は人間と同じで何でも出来ますよ」


「そういえば王都に来る途中、農場や牧場で働くコボルトを見たわ、騎士のコボルトもいたし、護衛のコボルトも………」


「あら、国外の方に話してはいけなかったかしら」


「ふふふ、この街に居ればいずれは分かる事ですわ。………それより、その可愛い子を一匹貰う事は出来ないかしら。お金で良いなら言い値をお支払いする用意はあります」


 リリスはツェンの子供達を見詰めて、ジュリアに思い切って交渉してみた。


「はぁ、いくら王女様とは言え、言って良い事と悪い事がありますわ。自分の家族を売ってくれと言われて、頷く人はいませんよ」


ジュリアは優しくリリスに告げるが、無表情で冷たい目を王女に向ける。


「ワフ」(何言ってんだワン)

ツェンも怒りを抑えているが、抑えきれない様子だ。


「これだけは覚えていて下さい。コボルトはモノではありません。この国の国民であり、人間と変わりません。この国の全ての人が愛でて可愛がっている大切な隣人です。王女で無ければ叩き出していますよ」


「あ! ああ、ごめんなさい。………せめて、モフモフ、モフモフはさせて貰えないかしら?」


「はぁ、貴方達。王女様がこう言ってますが、どうしますか?」


「バフ」(やだワン)

「バフバフ」(キモいワン)

「バフバフ」(お腹空いたワン)

「バフ」(肉くれワン)

「バフバフ」(肉肉ワン)


「駄目みたいですね。それより、お店の御用が無ければお引取り願えませんか? 急ぎの錬金の依頼も入っているので、仕事に戻りたいのです」


「あ、すいません………」


すごすごと城に引き返すリリスだったが、(収穫はあったわ。この国の秘密はコボルトなのね!)と密かに確信するのであった。

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