第8話 アンナとバークとアインス

 夕方になり馬車が野営地に着いた。


「今日はここで野営しますよ〜」


 そう言うと、御者が馬車を停めて野営の準備を始めて、護衛の冒険者達も野営の準備に忙しくしていた。


「さあさあ、夕食を作りますよ。1食銅貨2枚ですからね〜」


 商人とその使用人は食事を作り始めた。


 初めに乗り合いをする時、商人が食事を用意して、皆が食事代を払う事で合意している。


 乗客の老夫婦とレンはやる事も無く、ボーっとその様子を見ていた。


 眷属にした秋田犬のコボルトは尻尾を振ってレンと老夫婦の周りをウロウロしながら、あちこちの匂いを嗅いでいる。


「あら、薬草だわ」


 元薬師である老夫婦の婦人が野営地の端で薬草を見つけたようだ。


「こっちにおいで」


 婦人がコボルトを呼ぶ。


「ワフ」

(な〜に〜)


 すっかりコボルトは婦人に懐いているので、呼ばれた方に駆け出した。


「薬草ですか?」


 レンはコボルトの後を追って婦人の元に行った。


「そう薬草よ。この薬草はね。葉っぱだけが必要なの。葉っぱだけを綺麗に採取するのよ。コボルトちゃんは匂いを覚えられるかしら?」


「ワフワフ」

(大丈夫だワン)


「コボルトは手が人間に近いから、葉っぱだけを採取出来るかもしれませんね。コボルト、婦人の真似をしてやって見て」


 レンはナイフをコボルトに渡した。


 コボルトはナイフを受け取ると婦人の真似をして薬草の葉っぱだけを採取する。


「そうそう、上手ね〜」


 婦人はコボルトを褒めると、レンの方を向いた。


「レンくん、婦人って言い方はちょっとよそよそしいわ。袖振り合うも多生の縁と言ってね………。ああ、名前を名乗って無かったわね。私はアンナ。宜しくね」


「はい。アンナさん、こちらこそ宜しくお願いします」


「それから、コボルトって呼び方も改めた方がいいわね。名前を付けて上げましょうよ」


「そうですね〜。ん〜。………アインス。アインスにします。分かったかいアインス。君の名前はアインスだ」


(確か、ドイツ語で1をアインスって言うはず。初めに眷属にしたからアインスにしよう)


「ワフワフ」

(分かったワン)


 その後、アインスは薬草の匂いを覚えて、アンナと周辺を散策しながら採取を教わった。


「レンくん、アイちゃんは優秀よ。もう3種類の薬草の匂いと採取の仕方を覚えたわ」


「アイちゃん?」


「彼女は女の子よ。アインスだからアイちゃんと呼ぶわ」


「そうですか、アインスに採取の仕方を教えてくれて、有難う御座います」


「いいのよ。寂しい旅路が楽しくなったんだから、ね」

 アンナは旦那に合意を促す。


「そうそう、私の名前はバークと言います。大工を引退して、妻と一緒に地方で余生をゆっくり暮らそうこの馬車に乗りました。妻も楽しそうにしているので、助かります」


「バークさんですか。そう言ってもらうと助かります。移動の間はアインスの面倒をお願いしても宜しいのでしょうか」


「いいですとも。こちらからお願いしたいくらいです。村について何かあったら訪ねてきて下さい。私に出来る事なら手伝いましょう」


「おお、そう言ってもらうと助かります」


「あら、まだ街にも着いてないのに、気が早いんじゃないかしら」


「ははは、最もだな」

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