第77話 クイントン
レンが三大都市を瞬く間に制圧し、フェルダー達は傭兵団を下し、中規模の都市や街を制圧に乗り出す。そしてコボルト達は村から徴兵に応じた兵士達を処分している。
その結果………。
「コジマ卿、徴兵が全く集まりません」
「全くと言ってもゼロではないであろう」
「は、はい。数百人ぐらいであります」
「数百? 数百だと! 1万は集めて辺境の地のコボルト達を蹴散らそうと言う時に、桁が違うではないか、………あの噂は本当だったか」
「はい。徴兵に応じて領都や各都市へ移動する者達が襲われている噂は本当だったようです」
「ぐぬ、やはりか……」
「その噂が広がり、それを恐れて徴兵に応じる者は極端に少なくなったようです。兵として採用後は戦死しても報酬が出ますが、採用前に戦って死んでも何の補償も無いですから……」
「むむ、何と卑怯な。正々堂々と戦う事が出来んのか。あの田舎者達は! ……傭兵は、傭兵はどうした? いつも真っ先に来るではないか」
「傭兵も、………応じる者が少なく、あの者達が徴兵に応じる前の傭兵団を襲撃しておりまして……」
「な、なに! くっ………、大都市からの兵はどうした? 何故、まだ来ない!」
「大都市からは音沙汰が全くありません。状況を探りに行った者も戻って来ません。しかも………」
「まだあるのか?」
「傭兵団を下した辺境街の軍が、傭兵団を率いて各街中を制圧し、領都に向かっております」
「数は、数は如何程だ!」
「大凡千かと………」
「良し、良いだろう。我が軍も現在千程度だ。同数ならば負けはしない。迎え撃ってやろうじゃないか」
「しかし、徴兵で集まった兵達の訓練はまだ不完全で──」
「ええい、煩い! 出撃だ! 敵を蹴散らして大都市の救援に向かう」
コジマ公爵は得もいえぬ恐れを振り払う様に、領軍千人を率いて迎撃のため出陣する事にした。
一人でも戦況を覆す事の出来る英雄故の傲慢さなのか、自分の治める領地を取り戻す為の決死の覚悟なのか、この出陣がコジマ公爵の最後となるのであった。
ゆっくりと進軍するフェルダー軍。
「大将、こんなにゆっくりで良いのかい?」
傭兵団の団長の一人がフェルダーに尋ねる。
「良いんだよ。作戦があるんだ」
「作戦?」
「ま、詳細は話せんがな」
フェルダーは騎竜の背で周りを見ていた。
「ここらで良いか。良し、ここに陣を張るぞ」
「ここですか?」
「そうここだ。見通しも良いしな」
「せめてあの丘の上の方が良く無いですか? 高いところに居たほうが有利ですよ」
「ほう、お前は戦術に詳しそうだな」
「ええ、まあ。コジマ将軍について戦争には何度か参戦してますからねぇ」
「良いじゃないか。名は何と言う」
「クイントンです」
「良し、クイントン。お前を参謀に任命する」
「えっ、参謀?」
「ははは、だが今回は俺の命令に従え。面白いモノを見せてやる」
「は、はあ………」
「ゼクス、ズィベン! 頼んだぞ」
アイリッシュウルフハウンドのコボルト・ゼクスとグレートデンのコボルト・ズィベンが大都市のコボルト宿舎の建設を終えて、今回はフェルダー達に同行していた。
伝説の建築家バークの愛弟子の二匹は、弟子のコボルト達を率いて、工兵として参加していたのだ。
「エリー、ツヴァイ! 警戒は任せた」
「はいよ! ツヴァイ行くよ!」
「ワンワン」(任せてワン)
エリーとゴールデンレトリーバーのツヴァイのコボルト部隊は弓術と諜報部隊を兼ねている。
敵の斥候を始末する為に音をたてずに周囲に散っていく。
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