第30話 竜車

 アンナの家に泊めて貰ったレンと秋田犬のコボルト・アインス、シベリアンハスキーのコボルト・フンフとチベタンマスティフのコボルト・ツェンは、翌日イアンとカミラの商会に訪れて、馬車を購入した。


 ヘレナが事前に教えてくれたアドバイスに従って、馬の代わりに竜が引く竜車を購入したのだ。竜と言ってもドラゴンではない蜥蜴の魔物らしい。


 姿形はティラノサウルスに似ているが、大きさは馬ぐらいだ。1頭でも2頭引きの馬車を引けてスピードも馬2頭で引く馬車より速い。


 その上、ゴブリンやオークよりも強いので、道中も安全だ。その分値段は高かったが、今後の移動を考えると必要経費と考えた。


 侯爵に貰った金貨もまだまだ残っており、お金はあるのだ。


 道中で採取した薬草や狩った魔物の魔石などを冒険者ギルドに買い取って貰い、少額だが収入も安定している。


「随分、凄いのを買ったな」


 アンナの家に竜車を持っていくと、バークもアンナもジュリアも驚く。


「そんなに荷物はないぞ。全部マジックバッグに入れたからな」


「私も大型のマジックバッグを持ってるからね。荷物は殆どないわ」


 バークもジュリアも大型のマジックバッグを持っているらしい。


(アインスに大きめのマジックバッグをくれるぐらいだから、お金持ちなのかも知れないなぁ)


 と思うレンだが、その考えは正しい。そもそもマジックバッグ自体を庶民は買えない。


 レンもイアンから中型のマジックバッグを購入しているので、値段は知っているのだが、侯爵の舘に閉じ込められていたので、世間の常識には疎いのだ。


「道中の安全と時間を考えれば必要なのですよ。今後も往復する事も多いでしょ。餌はゴブリンでも良いそうなので、そんなに困らないでしょう」


「御者はどうするんだい? 俺は出来ねえぞ」


「フンフとアインス、ツェンが来る途中で『朝焼けの光』の皆さんに御者の仕方を教わったので大丈夫です。竜車を購入したときも試して見て問題が無かったですよ」


「ほほう、コボルトは何でもできるな」


「ええ、ほぼ人間と同じ事が出来ますよ」


 バークとジュリアは借りていた家の契約を解消し、引っ越しの準備も終わっていた。


(この世界はマジックバッグがあるから、荷物をまとめたり運んだりしなくて良いので、あっという間だな。引っ越し業者の商売は成り立たないな)


 その後、コボルト達をアンナ達に預けて、レンは街の領主を訪ねた。


 そこで侯爵の書状を見せて、開拓村に正式に赴任する事を告げて、住む人が居なくなった土地や家などを自分の物にする事も告げる。


 この街の領主も侯爵の書状を持つ侯爵の子であるレンに文句の言いようもなく、粛々と受け入れた。


 人も住まなくなった村がどうなろうとあまり気にもしないのが本当のところで、領主はレンが訪ねて来たことすら忘れるのであった。


 開拓村に勝手に住み着いたと思われて、後々トラブルに発展しないように先手を打ったのだが、ここで領主を訪ねた事が後々で活きて来るとは、思いもしなかった。


 こうして、レンは薬師のアンナ、大工のバーク、錬金術士のジュリアの新たな村人3人を連れて、辺境の街を出て開拓村に戻るのであった。

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