第139話 その後のエチラル王国

 ヴァイシュラが大将軍に就任するちょっと前のエチラル王国国王の執務室。


 ヴァイシュラが出ていって行方不明になった事で叔父である公爵が国王に就任した。


 そして国王は我が世の春を謳歌していた。


 国王は今日も執務室でニヤニヤしながら、高級執務用椅子の座り心地を満喫していた。


(ヴァイシュラの奴は質素でショボい椅子と机で執務をしていたらしいが、やはり王たる者はこれぐらいの高級感は必要だな)


 と考えながら、窓の外をボンヤリ眺めると、(今日は何処に飲みに行くかなぁ?)

 なんて考え始めた。


(金は有るんだ。賄賂がたんまり入って来るからなぁ、ぐひひ)


 国王なんだから、賄賂などより収入が多いはずなのに、セコくて小心者の国王だった。


「陛下! 大変です」


「なんだ、煩いな」

(折角のんびり良い気分に浸っていたのに)


「属国のコーズケットにカイル王国軍が攻めて来たと報告がありました」


「ああ、また来たのか。とっとと軍を派遣して追い払ってやれ。全く国力の差を知らんのか、あの馬鹿どもは」


「では、新将軍に命令を出します」


「ああ、兵を集めるのに時間がかかるだろう。その間は辺境伯に先行させとけ」


「は、そのように致します」





 辺境伯の執務室。


「エチラル王国軍が出陣するまでの間、コーズケット王国へ軍を派遣しカイル王国を抑えておけと指令がありましたが、どうされますか?」


「どうもこうもあるまい。行くしかないだろう。本当に困ったもんだ。あいつら自分達で解決出来ないのか。コーズケットのボンクラどもがああ」


「しかし、軍神がいないのですよ。我々だけでカイル王国の騎馬兵を抑えられるかどうか」


「ああ、仕方ないな。ヴァイシュラが行方不明になったことを知らない、あの田舎者の騎士団でも派遣してやろう。礼儀を知らん奴らだから良い機会だ」



 と言う事で派遣された田舎者と言われた辺境伯爵の騎士団は………。


「団長ぉ、おいら達だけで出陣なんて、また貧乏籤引かされたんじゃないんすか?」


「ん、ヴァイシュラ様がいっから大丈夫だで。危険だったらヴァイシュラ様が出張ってくるさ」


「なんか嫌な予感がするんすよねぇ」


 ヴァイシュラはすでにエチラル王国にはいないから、この男の予感は正しい。


「報酬貰って帰ってくっぺよ」


 騎士団と言っても辺境の地、専属で騎士をしている者は一人もおらず、普段はみんな農作業をしているそんな騎士団だ。


 当然、中央の出来事には疎い。しかし、農業国であるエチラル王国を支えるのは、この様な農業主体の騎士が殆どだ。


 だが、彼等は農業で鍛えた足腰で、ヴァイシュラと共に戦ってきた事で、それなりの精強さを持っている。


 そして共に戦ったヴァイシュラに絶対の信頼をおいている。何故ならば、ヴァイシュラに言われた通りに戦って負けた事がないからだ。


 危ない事は何度かあったが、ヴァイシュラの指示に従って行動した結果、いつも勝利を手にしている。


 しかも最近は騎士達の腕がもあがり、危ない事も少なくなった事により油断していた。


 ちょっと戦って報酬を貰おうと、気軽な思いで出陣したのだ。

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