第107話 再会

「ワンワン」(マスター!ワン)


「国王がレンと話をしたいって言ってるけど、どうする?」


 ゴールデンレトリーバーのコボルト・ツヴァイとエリーが、戦場をゆっくりと進むレンの元に駆けて来た。


「………会おう」


「分かった。ツヴァイ、手出ししないでレンを待つ様に伝えて来て」


「ワンワン」(了解だワン)


 ツヴァイは駆け足で元来た方向に走っていった。


「ちょっと急ぐか」


 レン達も歩く速度をあげてツヴァイの後を追う。






 ゲイルとシベリアンハスキーのコボルト・フンフの槍隊が囲んでいる一画にレン達は到着した。


「ガウガウ」(マスター、ワン)


 レンが着いたのを確認したフンフの指示で槍隊は道を開けて見守る。


「ご苦労」


 フンフの頭を撫でてその道を進むレン。その両脇にはマチェットを抜いて、臨戦態勢で従うワイマラナーのコボルト・アハトとボルゾイのコボルト・ノイン。


 微動だにせず槍を構えて敵を見据えるコボルト達の真ん中に国王とその側近達がいた。


 側近達は剣を抜き身構えて国王を守っているが、汗を掻き疲れが見える。


「お久しぶりですね。国王陛下」


 レンは、跪かず、頭を下げるでもなく、胸を張って、まるで道行く知人に声を掛ける様に国王に話し掛ける。


 国王と目と目を合わせるレン。


(変わらないなぁ。相変わらず迫力がある眼光だ)


 国王も黙して語らず、胸を張りただレンの目を見詰める。


「レン! 無礼であろう。御前であるぞ。国王に領地を賜りながら、コボルトなどを使って反逆を企てるとは、恥を知れ!」


 それまでの緊張が嘘の様に、レンの顔を見ると過去の事を思い出したのか、勢い付く側近達。


「俺も国王なんだけどなぁ。つまり話をする気は無いと、そう言う事でいいのかな? 元々俺の命を狙い、領土を奪おうとして今更何を言う。アホくさ。」


 レンを睨む側近達に呆れた顔をして、レンは振り返り元来た道を戻ろうとする。


「待て! レン!」

 国王の声がする。


「降伏の話かと思ったが、俺に降るつもりは無さそうだ。それなら俺には用が無い。無様に死んでくれ」


 レンは振り返らず歩き出した。


「待て!」

 再度大声で叫ぶ国王。


「ぶ、無礼にも程がある! 国王の御前であるぞ!」


 また、叫ぶ側近に、


「無礼は貴様だああああ」


 ドカッ!


 国王は叫んだ側近を殴り倒した。


「誰が発言を許可した。しかも戦いの趨勢が明らかな戦勝国の国王に向って言う言葉か」


 レンはその音を聞き振り返る。


「降伏する気はあるのか?」

 レンは国王に告げる。


(父親と会って、何か感慨深いモノがあるかと思ったが、何も感じなかったな。父親らしい接触が全く無かったから、ただの知人程度としか思えない。しかもいつも威張っていてあまり印象の良くない知人だ)


「ふふふ、ははははは、変わらず覇気が無い目をしているが、国王としての素養はある様だな」


「それで?」


 レンは冷酷に国王を見詰めた。


「ヒダ王国は正式にレンに継承させる」


「陛下、何を仰る──」


 ドカッ!


 喋ろうとした側近を殴りつける国王。


「これがその証明よ」


 国王は懐から書状を出した。


「ノイン、受け取って来い」


「ウォン」(了解だワン)


 ノインは国王から書状を受け取る。


「くくく、コボルトとは言え侮れんな。その身のこなし、迫力、一廉の武人に勝るとも劣らない」


 国王はノインを間近で見た感想を告げた。

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