第89話 先触れ

「ミノス王国の王女が国使として、この国に来たいんだって」


 ヘレナがレンの執務室に入って来て、開口一番にそう言った。


「国使? 誰から聞いたの」


「ん〜、先触れが来た」

 ヘレナの肩にネズミが乗っていた。


 ネズミのモンスターはヘレナの眷属だ。この国の諜報部隊を担っている。


「へぇ、ミノス王国って言うと、辺境村辺りで面会する感じか」


「ん〜、それがね。ヒダ王国との国境に先触れが来たから、面会はここね。そもそも辺境村に外国の要人を迎え入れる施設なんて無いわよ」


 現在、コジマ公爵領の元領都を王都としていて、そこの城でフルメンバーが生活している。


 レンはどこでも良かったのだが、「やっぱり国王は城に住まなきゃ」とヘレナに言われたのでそうしていた。


「確かに村には領主の館ぐらいしかないな。じゃあ、ヒダ王国から来るんだな」


「まあ、ミノス王国は南にあるとは言え、大きな領土だから、ヒダ王国とも接しているしね。ヒダ王国に寄ったついでだと思うわよ」


「隣国の王族だから、今後の事もあるので、断るつもりはないけど、国使ってなにしに来るんだ?」


「友好的な関係を築く為の前段階的な建前ね」


「建前?」


「そう、実際は情報収集だと思うわよ」


「ああ、そうか。間者などが入れないようにしっかりガードしているからね」


「他国と交流が無いから実質鎖国状態だしね」


「そうだなぁ」


「とりま、受け入れるって事でいいかしら?」


「ああ、会って見よう」


「かなり美人らしいわよ〜」


「あはは、王女と俺じゃ釣り合わないよ」


「なに言ってんのよ。あんた国王じゃない! とは言っても、レンと王女がくっつくイメージが無いわ。……無いわよ」


「あらぁ、はっきり言ったらどうなの? 私とならお似合いよ〜って」


 ロジーナがソファでチワワのコボルトを抱っこしていた。


「あ、あんたねえ! 気配を消して、ここでなにしてんのよおお!」


「ん〜、私は陛下のお付きの者だからねぇ。ねぇ、いい子いい子」

 チワワのコボルトを撫でるロジーナ。


「護衛はアハトとノインで充分なのよ。あんたもAランク冒険者なんだから、騎士団の一つでも受け持ちなさいよ」


「ガフガフ」(任せてワン)

「ウォン」(充分ワン)


「人にはねぇ。得手不得手ってものがあるのよ。個人で戦うなら負ける気はしないけど、集団を指揮するのは苦手なのよね〜」


「確かにあんたは自分勝手で我儘だわ」


「そんなにはっきり言わないでよ」


「でも、あのロジーナが、こんなところで油売ってるなんて勿体ないわね………」


「止めてよぉ! 変なところに行かせないでよね」


「エリーとツヴァイ達に斥候の指導でもさせようかしら」


「あ〜、あの子達は既に一流の斥候よ。私が気付かれるなんて、ここ数年で初めてだったわ。しいて言えば問題は戦闘力ね。それもそこらの国の諜報部隊よりは上でしょ」


「あら、随分持ち上げるわね」


「本当の事よ。他国の間者が入って来れないのが証拠だわ。それより心配なのは国王の暗殺でしょ。レン様が死んだらこの国は終わりだからね。まあ、私がここに居れば安心だからさ。ここに居させてぇ」


「その心は?」


「えへ、レン様のメイドってレベルが高いのよ。可愛い子ばっかり。街で巡回しているコボルト達より数段上だわ」


「それが目的か………」

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