第88話 リリス
「まだ、アレス王国へ交渉に行く人材が見つからないみたいですわね」
ヒダ王国に嫡男ヨリツナの正室の姉が訪ねて来ていた。その名はリリス。
そのリリスがヨリツナに尋ねた。
ヨリツナは南の隣国ミノス王国の王女を正室に娶っていた。ミノス王国は辺境の国アレスの更に南にある国だ。
ミノス王国は蛇獣人の国。蛇獣人と言っても人間と殆ど変わらない。
ヨリツナが見た中では、舌の先端が2つに分かれたスプリットタンである事、身体の一部に鱗がある事以外は、人と異なるところは見当たらない。
妻は美しく妖艶な王女であり、同盟の為にと初めて会った時から一目惚れだった。
その姉も美しい。明眸にて花唇、長く艷やかな黒髪、雪の様な白い肌、ほっそりとしてしなやかな腰、たおやかな身のこなし、セクシーな肢体は正に妖艶。
「そうなんです。馬鹿ばっかりで困りますよ」
「早く解決して安定させて欲しいですわね」
リリスの言葉は当然で、隣国と思っていたヒダ王国とミノス王国の間に突然正体不明の国が出来た。
その内情を知る必要がある、ミノス王国の今後の領地運営に関わる重大事項だからだ。
「信頼出来る者も全てが表面はともかく、裏ではレンを嘲り侮っている者ばかり、現状の認識が甘過ぎるのです」
「まあ、レン国王はそれ程、子供の頃は凡庸だったのですね」
そう言ったリリスのか細くしなやかな指が頬を撫でる仕草にヨリツナは目を離せない。
「はぁ、何故あれ程の国を興せたのか。内情が分からず疑問が増えるばかりです」
「それは困りましたね。私の国でも内情を探ろうとしておりますが、全く分からず不安が募るばかりですの」
「はい。国交断絶している現状、正式ルートでの情報収集は出来ず。非公式のルートもなくお手上げの状態です」
「成程、………それでは私が使者となりましょう」
「え! それは止めて下さい。あまりにも危険すぎます」
「ふふふ、ヒダ王国の使者なら兎も角、ミノス王国の使者には手を出さないはずですわ。挟撃される事を嫌うのは向こうも同じ」
「そ、それはそうでしょうが。だったら態々王女である貴方が行かなくても良いのではないでしょうか」
「いいえ、私じゃないと駄目なのです。他人の言葉より自分の目で確かめたいのです」
「なぁ、お前からも義姉さんに言ってくれ。義姉さんがアレス王国に行くのは危険だ」
「ふふふ、お姉さんは一度言い出したら、国王が言っても聞かないわ。無駄よ」
「はぁ、心配です」
(だが、確かにリリスに行ってもらうのも一つの手か? 幼少の頃のレンを知らない者の方が、ありのままの現状を認識出来るかも知れない)
と思うヨリツナであった。
(ふふふ、楽しみですわ。ミノス王国が打ち破れなかった、辺境の英雄コジマ公爵を一瞬で撃破し建国した男の正体が見れるなんて、他人には任せられません。ヒダ王国から帰る時に寄れば国王から反対される心配もないですわ)
紅口白牙、クスクスと嫣然一笑したリリスが、ペロリと出した舌は先端が2つに分かれていた。
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