第64話 辺境の街の領主

「みんな速過ぎ」

 騎竜ドラッヘの背の上で、領主の館を目指すレンの前を、足自慢のコボルト達が追い抜いていく。


 領主の館が見えて来た。


 当然門が閉まっていて、門番が騒ぎに警戒して槍を構えていた。


「フィア! 門を吹き飛ばせ! ツヴァイ! 門番達を片付けろ!」


 レンはフラットコーテッドレトリバーのフィアとゴールデンレトリーバーのツヴァイに指示を出した。


「ワォン」(了解だワン)

「ワンワン」(任せてワン)


 フィアとツヴァイは急停止して、フィアは杖をツヴァイは弓を構えた。


 フィアの炎弾を放ち門を吹き飛ばし、ツヴァイは矢を放ち門番達の額を貫いた。


 吹き飛ばした門の中を勢いを落とさずそのまま突き進むコボルト達。


 フィアとツヴァイはすぐさまレン達の後を追った。




「な、何事だ?」

 門が吹き飛んだ轟音を聞き、領主の館の中で領主が執事に尋ねる。


「何事でしょう。今、見て来ま──」

 落ち着いた声で領主に応えようとした執事の声が止まる。


ドカッ!


「おお、やっぱり執務室にいたか」

 領主の執務室にドラッヘに乗ったレンが扉を壊して侵入して来たのだ。


「レン!……さま、何事ですか? 騎竜で舘に侵入するとは、無礼にも──」

(ほどがある………)


 領主は無理矢理落ち着いた声を出して場を収めようとしたが、レンの後からコボルト達がマチェットを手に入って来たのを見て、声を出せなくなった。


「おいおい、無礼? 何言ってんだ。アキツナをたき付けて俺の領地に宣戦布告したくせに、随分悠長だな」


「まさか、アキツナ様は?」


「当然、俺の領地に攻め入って来た不届き者は全て殺した」


「は? 500の兵が一緒に向かったはずだが──」


「勿論、兵も全て殺した。可愛そうにお前が余計な野心を持った為に門番も全て殺す事になったよ」


「は? 全て……」


「今際の際に尋ねたい事は他にあるか?」


「お、王家の供出には応じないのですか? 王家に反旗を翻すのですか?」


 領主は窮地を脱する為に、出来るだけ情報を得たいので質問をする。


「ああ、王家か。大体国王の書状も持っていない戯言に領地を差し出す馬鹿はどこにもいないだろう。お前、書状を見たのか? あのマヌケは書状も持たずに喚いていたぞ」


「た、確かに書状は確認しておりませんが、王家からの供出の命令は事実ですよ」


「ははは、だったら王家とも戦うしかないな。来年になれば、王家ともそこそこ戦えるし、再来年は王家にも勝てると思うぞ」


「な、何を根拠に………」


「もう、良いよな? 随分答えてやったぞ」


「ま、待って──」


「ドライ! 殺れ!」


「ガウガウ」(了解だワン)


 ドライは手に持っていた黒く禍々しいゴブリンジェネラルの剣で、一瞬で領主の首を跳ねた。


 ドライはゴブリンジェネラルの剣に、クリーンの生活魔法を使い血糊を消して、鞘に納めた。


「お前は、俺に忠誠を誓えるか? あまり多く殺すと領地運営に支障をきたすからなぁ。それとも殉死するか?」


 レンはドラッヘの上から見下ろし、執事を威圧する。


「ち、忠誠を、ち、誓います」

 執事はやっとの思いで声を出した。


「良し、屋敷の者を集めろ。それから領主の血縁は全て殺すから居場所を教えろ」


「は、はい。承知しました」

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