第71話 カルマンとラバンとネイサン

「ああ、リーダー? 団長かな? 何処に居ますか? もしかしたらもう死にました?」


 生き残った傭兵達が一斉に一人の男を見た。


「ああ、俺が団長だ。です。」


「じゃあ後には団長に案内して貰いましょうか。貴方は館に戻っても良いですよ」


 レンは脚が震えて青ざめた顔で、今にも倒れそうになっている使用人にそう告げた。


「この方を舘に送ってくれ」

 レンは近くにいた柴犬のコボルトにそう告げると、傭兵団の団長の顔を見た。


「ここから一番近い傭兵団の拠点か、冒険者ギルドか、衛兵の詰所に案内してください」


「わ、分かった………。一番近いのは衛兵の詰所だな」

 冷や汗をかきながら傭兵団の団長は答えた。


「あ、誰か先に行って余計な抵抗はしないように伝えて貰いましょうか。人選宜しく」


 レンが団長に告げると団長は生き残った傭兵達を見回して、一人の男に話し掛けた。


「カルマン、交渉が上手いお前が行って来い。出来るだけ抵抗させないようにな」


「はい。畏まりました」


 カルマンと呼ばれた男は走って詰所に向かった。


「ウォンウォンウォンウォン」(今の人が街を歩けば家から出た者として殺すワン)


 ボルゾイのコボルト・ノインがレンに話し掛けた。


「そう言えばそうだね。ノイン、有難う。この人に同行して事情を説明して」


 レンは周りのコボルトに指示を出す。


「わんわん」(任せてワン)


 足の速いグレーハウンドのコボルトが返事をしてカルマンを追って行く様子を見て、コボルトと会話するレンを不思議そうに見る傭兵達。


 そんな中でレンは団長に話しかけた。


「私は辺境街の領主レンです。団長さん、貴方の名前も聞いておきましょうか」


「あ、ああ、俺はラバンだ。です。宜しくた………、お願いします。領主様」


「敬語じゃなくても良いですよ」


「ああ、感謝する」





 レン達が衛兵の詰所に着くと衛兵達は抵抗を止めて、大人しく待っていた。


「おや、カルマンさん。説得が上手く行ったようですね。随分優秀な方のようだ」


「いや、既に領主は殺されて、騎士団も壊滅し、街中に魔物が溢れて抵抗する者を殺し廻っている。そして死体があちこちに散乱しているのを目の当たりにしたら、抵抗が無駄だと言う事は分かっていました。後は死なない為には大人しくするしかないでしょう」


「そうでしょうが、騎士と衛兵は最後まで抵抗すると思っていました。カルマンさん、貴方は他の傭兵団の拠点と冒険者ギルドに先に行って、そこにも同様に説得して下さい。抵抗せず俺の配下に入るなら、建物の前に武器を持たずに整列している事。良いですね」


「分かりました。私もこの街には愛着があります。出来るだけ知人が殺されない様に説得してきます」


「宜しい、それではお願いします」


 レンはカルマンとグレーハウンドのコボルトが、また走って行く背中を見詰めていた。


 カルマンが見えなくなると、傭兵団の生き残りと衛兵達に向き直る。


「この中に衛兵の隊長は居ますか?」


「私が隊長のネイサンです」


「ネイサンさんはそのままついて来て下さい。その他の衛兵達は武器を所持しないで、街中の死体を片付けて下さい。そしてコボルト達に抵抗もしない事」


「承知しました」

ネイサンが答える後ろでは………。


「コボルト! コボルトなのか? コボルト………」


 武器を持ち周りを取り囲むコボルトを見て「信じられない」という表情で驚く衛兵達。


「他のコボルトが殺さない様にこの人達に何匹か同行してくれ」


「わんわん」(了解だワン)

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