第67話 侯爵

「陛下! レン様からジャックの首が送られて来ました………」


「何! あやつは王家に仇をなすのか! 許せん、許せんぞ。しかし、今は隣国エマとの戦争中、国軍は送れぬ、………コジマ公爵に出陣を命じる。レンの首を取って来るのだ!」





「と言う事になったらしいわよ」

 ヘレナが間諜のネズミを撫でながらレンに伝えた。


「コジマ公爵かぁ。思った通りだ。我が領地に一番近くて強くて確実。辺境の抑えの将軍だからね」


「大丈夫なの? 名前は聞いた事あるわよ。強いんでしょ」


「最大動員数も一万を超える敵だ。まあ、まともに戦ったら勝てないね」


「えええええ! 駄目じゃん」


「ははは、まともに戦わないから大丈夫さ。ね!」


 レンはヘレナの報告を聞いていたフェルダーに同意を求めた。


「はぁ、初戦から責任重大だな。決めていた通りにやってみるよ」

 フェルダーは自信なさげに頭を掻く。


「大丈夫だって、この世界の戦争のルールに従う必要は無いからね。卑怯上等勝てば官軍だよ」


「この世界って、レン様は何処の世界の人なんだか」


「それは秘密です」


 通常この世界では街の常備兵は多くても精々500人程度だ。それが何故一万人の兵を集められるかと言うと、領地内の各村や街で働く農民や市民、傭兵達を集めるからだ。


 その後簡単な訓練を経て、軍として使えるようにするのだ。


 そのため、兵を募集する。集まる。訓練をする。と言った工程が必要となり、要員数が多いとある程度の期間が必要になる。


 その間、通常は敵国も同じ様な工程を経て軍を整え戦争と言う運びになるのだが、軍隊として編成された大軍を相手にするには、レンの領地の規模では敵わない事は明白だ。


 ではどうするか。


 軍になる前に叩けば良い。軍が出来上がるのを悠長に待つ利点は全く無いのだ。


 コボルトの利点は機動力。そして嗅覚、聴覚に優れたコボルトは、人に気付かれ無い様に人を避けて領地に入り込む事が出来る。


 領地は広く、関所を通らなくても道なき道を行けば、気付かれない様に入り込める。


 現在はかなり多くのコボルトの騎士を動員出来る為、あちこちから人に気付かれ無い様に、多くのコボルトが一斉に領地に忍び込んでいた。


 各村から募集に応じて移動する兵になる前の一般人を倒すのは容易い。


 しかも徴兵の募集に応じて街や領都に集まる者達はひと目で分かる。


 武器や防具を街や領都で支給なんて出来ないので、自分達で用意する。予め防具を装備し武器を持って意気揚々と領都を目指す、そんな少数のマヌケ達を狩って行くだけだ。


 コボルト達は軍の訓練はしていない。冒険者の訓練をしている言わば少数で戦う事に慣れている。


 4から5匹のパーティを一組とするが、二組または三組でコジマ公爵領内を敵に見つからないように、そしてマヌケな徴兵達を狩るのだ。


 そしてある程度まとまって動く傭兵団のうち、街から離れた場所に拠点を持つ者達には、フェルダーとゲイル、ダリア、エリーがそれぞれ200匹のコボルトを率いてあちこちの傭兵団を並行で同時に攻める事にしていた。


 まあ、まとまった傭兵団と言っても百人はいない。精々多くても50から80程度。


 200匹の訓練されたコボルトが襲えば一溜まりもない。


 徴兵の募集に応じるか応じないか分からない傭兵団を問答無用で皆殺しにするのは、あまりにも可愛そうなので、一声掛けて軍門に下るなら良し、そうで無い場合は攻撃するようにしている。


 攻撃の途中でも負けを認めて軍門に下れば許す事にした。


 200匹のコボルトが一斉にまとまって領地に入れば目立つので、5匹ずつのチームに分かれて侵入し、予め決めていた集合場所に集まるのだ。


 フェルダー達はコボルトの機動力に合わせる為に、単独で騎竜に乗って領地に入った。


 彼等の身分は冒険者なので自由に領地を行き来出来る。

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