第74話 エル、ブル、プリシラ

 レンは冒険者ギルドの建屋を燃やし、ギルマスを殺して、冒険者ギルドを制圧した。


 これでこの都市での表立った抵抗勢力は無くなったと言っても良いだろう。


「館に戻るぞ」


「ウォン」(了解だワン)

「バフバフ」(呆気なかったワン)


 レンはボルゾイのコボルト・ノインとワイマラナーのコボルト・アハトにそう告げると、土佐犬のコボルトとイングリッシュブルドッグのコボルトに顔を向けた。


「お前達も一緒に来い」


「わふ!」(一緒に行って良いんだワン!)

「わ、わふふ?」(お、俺もワン?)


「それから、取り敢えずあんた達もついて来な。それから巡回以外のコボルト達は送還だ」


 レンは巡回のコボルト以外の付き従うコボルト達を送還すると、騎士団団長のマディソンと副団長のオリビア、この都市最大の傭兵団団長のラバンと各傭兵団や衛兵隊を説得してくれたカルマン、衛兵隊隊長のネイサン。そして、抵抗せずに配下となった冒険者達と、泣いて許しを請う冒険者達を連れて領主の館に戻る。


 領主の館に戻ったレンは、ホールに主だった者を集めた。


「先ずこの都市の事は暫くの間、お前に任せた!」


 レンが指差した先に居たのは……、土佐犬のコボルト。


「わわん?」(俺?)


「そう、お前だ! 領主代行に名前がないのはおかしいな。名を授けよう。お前の名は………」


「わわわん……」(俺の名前……)


(11はドイツ語でエルフだけど、エルフが出てきたらややこしくなるからなぁ。う〜ん、どうしよう。………エル! エルにしよう)


「エル! 名前はエル! いいかな?」


「わふううう!」(やったあああワン!)

 エルは名前を貰えて尻尾を大きく振り大喜びだ。


「ガフ……」(ちっ……)

「ウォンウォン」(うんうん良かったワン)

 舌打ちのアハトと頷くノイン。


「コボルトが領主代理………」

 そして不安の人間達。


「ブル、お前は名付けはしないが愛称ブルで良いか? 取り敢えずエルの補助な」


「わおん!」(ブル!良い名前だワン)


 レンはイングリッシュブルドッグのコボルトに告げた。


「で、コボルトは人間に指示は出来ないので、衛兵隊隊長のネイサンさんがフォローを頼むよ」


「私ですか?」

 ネイサンはちらりとエルを見る。


「あはは、自分の利益ばかり考えて余計な事ばっかりするボンクラ領主より、よっぽどましだと思うよ。エルは金は欲しないし、侠気があって、この都市をしっかり守れる信頼出来る存在だ。まあ、俺が誰かを連れて来るまでの中継ぎだし、戦争中だからな」


 尻尾を勢い良く振ってニコニコ顔で頷くエル。


「そ、そうですか………」

 心配そうなネイサン。


「そして、マディソンは騎士団団長を任せるよ。少なくなった騎士の補充に衛兵達と冒険者、傭兵を騎士団に入れる。都市の防衛の為、きっちり鍛えてくれ」


「えっ、俺も?」

 傭兵団団長のラバンが自分を指差しレンに尋ねる。


「いや、ラバンとカルマンは俺と一緒に次の都市に行く」


「次の都市?」


「そう、大都市は後二つ。今週中には制圧する」


「えええええ! マジすか」


「本気だ。騎竜を2匹用意しておけ」


「騎竜!」


「時は金也。移動は最速にだ! 大都市の領主だ。騎竜の1〜2匹ぐらいいるだろう」


「は、はぁ………」


「衛兵はどうするのですか?」

ネイサンが恐る恐る尋ねる。


「このまま、巡回のコボルト達に衛兵を任せろ。隊長はブルな」


「わわん」(ブル!に任せてワン)


「あ〜、私はエルさんの秘書でいいよ」


 とオリビアが言い出した。


(コイツ、モフモフ狙いだな。エルはそれ程モフモフじゃないが周りがモフモフだからなぁ)


「あ、私もエルさんの秘書に立候補します!」

 女性冒険者が「名前はプリシラよ!」手を挙げた。


 って、ナレーションに突っ込む脇役を初めて見たナレーションだった。


 自分の事をナレーションって言うナレーションも初めてかも。

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