第38話 冒険者ギルドのギルマス
「そこまでだ! 小僧! ギルド内で殺傷沙汰は許さん! 従魔の責任は取れるんだろうな」
ギルドの2階から降りて来たギルマスが、レンを襲おうとした『漆黒の翼』を斬り払った事で責任を追求する。
「従魔のやった事を主人が責任を持つ事は忘れてないだろうな」
「暴漢から主人を守ろうとした従魔になんの責任もない。買い取りはキャンセルだ。それよりサッサとノズチの皮を返しやがれ。人を盗人呼ばわりする冒険者ギルドが、人の素材を返さないのか。それとも横取りしようとしてるのか?」
レンは疚しいことはないと、堂々と胸を張りギルマスに告げる。
「むっ………」
自分の言葉にビビると思っていたFランク冒険者が、堂々と言い返せすのを目の当たりにして、二の句が継げなくなった。
レンはギルマスに向かって歩いていく。ドーベルマンのコボルト・ドライとワイマラナーのコボルト・アハトもマチェットを持ったまま、レンの両脇を固める。
「俺のノズチの皮は何処にやった? サッサとノズチの皮を返せ。さあ! 早く!」
レンは右手を出してギルマスに「返せ」の仕草をして迫る。
ドライとアハトの迫力に後退るギルマス。
「あれは、盗んだ証拠として………」
ギルマスは焦って思ってた事をそのまま口走る。
「盗んだ証拠! 受付嬢だけじゃなくギルマスも俺の事を盗人呼ばわりか!」
「Fランクの冒険者が倒せる魔物じゃないだろう!」
大声で言い訳をするギルマス。
「さっきも受付嬢に言ったが、俺が倒したなんて一言も言ってないぞ。人が倒した魔物の素材を買い取りに持ってきたら盗人か? 人が倒した魔物は買い取れないのか? それならそう言えば良い。買い取り出来ませんってな。今までも人が倒した魔物も買い取りしてるだろう。法に触れないよな?」
「ぐぬっ、生意気な。冒険者資格を剥奪しても良いんだぞ!」
伝家の宝刀である「冒険者資格の剥奪」、これを言われると大抵の冒険者は大人しくなる。
普通は冒険者をやってる者達は、冒険者しか出来ないから冒険者をやっている。冒険者じゃ無くなれば明日から生活が出来なくなるからだ。
「冒険者資格剥奪? こっちから辞めてやる。今、この時から冒険者は辞めた! いいな! 皮はすぐに返せ! さあ!」
「冒険者資格剥奪」はレンには全く通じない。元々身分は侯爵が保証している開拓村の領主だ。金もあるし、商会を通して売り買いするのも問題ない。
「へ? 良いのか。剥奪するぞ?」
「辞めたって言ってるだろう。剥奪も何もない。はぁ、返さないなら実力行使だな。領主のモノを奪って返さない奴らは極刑でも文句は言わせん」
「り、り、り、領主のモノ?」
「十数えるうちに返せ。返さなかったら殺す。10、8、7」
「ちょっと待って今10から8になったぁ」
「6、5、3──」
「返します返します。すいません」
ギルマスは慌てて2階に駆けていき、ノズチの皮を持って来た。
「最初から素直に返せ。こんな所、2度と来ないからな、俺の前に顔を見せるなよ」
レンはノズチの皮を受け取ると蹲る『漆黒の翼』を蹴飛ばして冒険者ギルドから出ていく。
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