第31話 ノズチ

 辺境の開拓村に竜車で戻るレン達。もうすぐ村も見えるところまで来て、道中は何事もなく過ぎて行くかに思えたが好事魔多し。


 その時の御者はシベリアンハスキーのコボルト・フンフだった。


「バウ!!!」(何かがいる!嗅いだことがない臭いだワン)


 フンフの言葉と同時に馬車の中の秋田犬のコボルト・アインスとチベタンマスティフのコボルト・ツェンも叫んだ。


「ワフー!」(知らない魔物がいるワン!)

「バフウウウ!!」(強そうな臭いだワン)


「君子危うきに近寄らずと言うからな。避けて行きたい。だけど村に近いから遠目にでもどんな魔物か確認だけでもしたいな」


 レンは御者のフンフに聞こえるように窓を開けて大声で告げる。


「バウバウ」(了解だワン)


「少しスピードを落として、遠くから見える位置を探そう」


「どうしたの?」


 ジュリアが心配そうにレンを見る。


「この先に嗅いだことのない臭いの魔物がいるらしい」


「なるほどそういう事ね」


 竜車は方向を変えて道を外れて進む。


 ブオオオオオオオオオ!!


 物凄い音が聞こえて来て、遠目に対象の魔物が見えて来た。


 毛むくじゃらのワーム? 大きくて長い身体。手も足も無い、目と鼻も無く大きな口だけが先端にあり。物凄い勢いで周りのモノを掃除機のように吸い込んでいる魔物がいた。


「ノズチ……」


 ジュリアが呟く。


「ノズチ?」


「そう、ノズチよ。何でも胃袋に吸い込む、異次元の胃袋を持つと言われる魔物」


「なんだか強そうだね」


「強いなんてもんじゃ無いはずよ。Aランクの魔物ね。Aランクの冒険者がやっと倒せる魔物のはずよ! でも………」


「でも?」


「胃袋がマジックバッグの素材なのよ。あのクラスの大きさだと、超特大のマジックバッグが作れそうだわ」


 ジュリアの目が輝いている。


「だけどAランクなんでしょ。このメンバーで勝てるとは思えない」


(『朝焼けの光』がいたら応援を頼みたいところだけど、遠出するから暫く街にいないって言ってたしな)


「ん〜、またとないチャンスなんだけどなぁ」


「村に近い場所だから村に被害が出るかも知れない。取り敢えず村に戻って対策を考えよう」


「そうね。でも………」


 ジュリアは諦めきれない顔でノズチを見続ける。




 村に帰って来たレン達。ヘレナとドーベルマンのコボルト・ドライ、ゴールデンレトリーバーのコボルト・ツヴァイ、フラットコーテッドレトリバーのコボルト・フィアが先頭でレンを出迎えていた。


「ガウ」(お帰りワン)

「ワンー♪」(マスター♪)

「ワォンワォン」(マスターお帰りワン)


 その後ろにアイリッシュウルフハウンドのコボルト・ゼクス、グレートデンのコボルト・ズィベン、ワイマラナーのコボルト・アハト、ボルゾイのコボルト・ノインの姿も見える。


「アフアフ」(マスターがワン)

「ウワンウワン」(帰って来たワン)

「ガフガフ」(お腹空いたワン)

「ウォンウォン」(マスターお帰りワン)


 村の入口で竜車を止めてレン、アインス、ツェンが竜車から降りて、その後ろからアンナ、バーク、ジュリアが竜車から降りた。


「出迎えご苦労さん」


 レンが手を上げて笑う。


「お帰り。後で話があるわ」


 レンに笑い掛けたヘレナはその後ろのアンナ達を見た。


「ああ、紹介する──」


「ジュリアさん!」


「ヘレナ。あなた、こんなところで何やってんのよ。ギルドはどうしたの?」


 ジュリアとヘレナは知り合いのようだった。


「まあまあ、話は村の中でしよう。ジュリアさんとヘレナは知り合いのようだから良いとして」


 レンはアンナとバークを向いて。


「彼女はヘレナ。テイマーズギルドから村に来てくれたんだ」


 そしてヘレナを向き。


「こちらは薬師のアンナさんと大工のバークさんだ」


 と紹介すると。


「ヘレナよ、宜しくお願いします」


 ヘレナはアンナに手を出して握手する。


「アンナです。村に住む事にしたの、宜しくね」


「バークだ。改築、建て替えをしに来た」


 と人間同士の簡単な挨拶が終わったので、レンはジュリアにツヴァイ達を、ジュリアとアンナとバークに新メンバーのゼクス達を紹介した後、村に入って行く。

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