第6話 コボルト2

 コボルトが一匹レンに迫っていた。

(うはっ! あっという間来やがった)


「だから下がってって言ったでしょ!」

 魔法使いがレンの前に回り込み杖を構えた。


「待って!」

 レンは更に前に出て。


「テイム!」

 コボルトをテイムした。


 狂った目のコボルトは立ち止まり、キョトンとしていた。


 そして………。


「ワフ、ワフ、ワフ、ワフ、ワフ、ワフ、ワフ、ワフ、ワフ、ワフ、ワフ、ワフ、ワフ」

(お腹空いたワン! お腹空いたワン! お腹空いたワン! お腹空いたワン! お腹空いたワン! お腹空いたワン!)


(お、コボルトの声が聞こえる)

「お腹が空いてるか?」


「ワフ、ワフ」

(そうだワン)

 頷くコボルト。


(俺の言葉も分かるようだな)


「あんた、テイマーだったのね」


 魔法使いの女が眉を顰め、杖を降ろしてレンの横に並びコボルトを見た。


「だからと言って、弱っちいコボルトなんかテイムしなくてもいいじゃん」


 狩人の女が馬車の屋根から飛び降りて来た。コボルトを睨むが弓は背中に背負っている。


「そうそう汚いし、臭いし………」


 鼻をつまみくぐもった声の魔法使い。


「グルルルルル」

 コボルトは狩人と魔法使いの敵意を感じたのか、歯を剥き出し唸る。


(た、たしかに汚いし臭い………)

 レンも顔を顰める。


「こら、攻撃するなよ」

 レンがコボルトに命令すると、コボルトはしょんぼりする。


「キュゥン」


「まあ、まあ、可愛いワンちゃんじゃない?」


 その時、老夫婦の婦人が馬車を降りてきた。手には干し肉の塊を持っている。


「お腹が空いているのね。これをお食べ」

 婦人は干し肉の塊をコボルトの前に置くと。


「ワフ、ワフ、ワフ」

(やったー! 肉だワン!)


 コボルトは尻尾を大きく振って肉を貪り食う。


「クリーン!」

 婦人が呪文を唱えると、コボルトの汚れが瞬く間に落ちていき、くさにおいも消えた。


 クリーンは生活魔法の一つで、魔法使いでなくてもごく少量の魔力で使える。対象を綺麗にする魔法だ。


 クリーンの生活魔法で綺麗になったコボルトは秋田犬に似ていた。


 秋田犬はマタギ犬とも言われる日本でも有数の大型の狩猟犬だ。しかも被毛は二重構造のダブルコート。モフモフ好きには堪らない。


「あ、モフモフ………」

「え、モフモフになった」

 魔法使いと狩人は手をワキワキさせて、コボルトに近付こうとした。


「ワフ、ワフ、ワフ………」

(眠くなってきたワン)


 コボルトは丸くなって寝始めた。


「良し良し、一緒に行きましょう」

 婦人はコボルトを抱き抱えると馬車に乗った。


(おいおい、俺がマスターなんだぞ)

 レンはコボルトを抱えて馬車に戻る婦人の背中を見ていた。


「ああ〜、モフモフが〜」

「あんなに綺麗になるなんて反則よ」


 魔法使いと狩人はフラフラと婦人を追って馬車に戻る。


「はぁ、仕方ないか」

 いつの間にかレンの後ろに来ていた御者が呟く。


「そうですな。女性陣は馬車に乗ってしまったので、我々だけで後始末をしましょう」


 御者と一緒に老夫婦の旦那、商人の男がコボルトの死骸を集めて来て、手早く解体し魔石を取り出していく。


 レンもコボルトの死骸を引き摺って一箇所に集めて、見様見真似で魔石を取り出す。


「はぁ、私も女性なんですけどね〜」

 商人の使用人の女がブツブツ言って。


「ファイア!」


 魔石を取り出したコボルトの死骸に油を掛けて呪文を唱えた。


「こうして燃やしておかないと、ゾンビになったりするからな」


 旦那は腕を組んでコボルトが燃えるのを見詰めていた。


「おっ! こっちも片付いたようだな」


 そうこうしていると馬に乗ったリーダーの剣士と槍術士が戻って来た。


「じゃあ、行くか」


 御者がそう言って馬車に戻ると、皆もあとに続いた。

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