第5話 コボルト
レンは八人のりの乗り合い馬車に乗って辺境の開拓村に向かっていた。
途中で魔物や盗賊が出る事もあるので、護衛の冒険者が同行している。
男二人と女二人の四人パーティだ。
リーダーは剣士の男、大剣を背負い体格の良いハキハキと話す。いかにも出来る男って感じ。
もう一人槍術士の男も体格が良いがどちらかというと太めで無口。
二人は馬に乗って馬車に並走している。
二人の女冒険者は馬車に乗っていた。弓を持つ狩人と魔法使い。二人共痩身で暇を持て余し姦しい。どうでも良い事を話して止まらない。
馬車にはその他に商人の男とその使用人の女。そして老夫婦が乗っていて、レンを含めると七人の乗客が乗っていて、御者席に座り馬車を操作する男を含めると全員で十人となる。
「む、魔物がくるわよ」
魔法使いの女がそう言うと、狩人の女も会話を止めて馬車の扉を開けて、並走する大剣のリーダーに声を掛けた。
「リーダー! 前方から魔物だ」
「了解! 任せとけ」
リーダーと槍術士の男は馬に鞭を入れて先行する。
魔法使いの女は魔力の探知能力があるのだろうか、それとも魔法か?
狩人の女はその後、走る馬車から身を踊らせて、馬車の屋根に上がった。
「コボルトだ!」
屋根の上から狩人の女の声が聞こえる。
「コボルト!」
レンは思わず大声を出して、窓から身を乗り出す。
「危ないから大人しくしておきな」
魔法使いの女が、レンの肩を掴んで馬車の中に引き戻すと、自分が窓から身を乗り出し杖を構えた。
(いよいよコボルトとご対面か)
レンはワクワクしながら、今度は反対側の窓から身を乗り出す。
「注意はしたからね。何かあっても自己責任だよ」
魔法使いの女は外を見ながらレンに警告した。
レンは生まれてから一度もコボルトを見た事がない。家の外に自由に行く事が出来なかったので、正真正銘の初対面だ。
コボルトに関する本なんて家には無かったので、コボルトテイマーなのにコボルトの事は良く知らない。
「馬車を止めな!」
屋根の上から狩人の女が御者に告げると、馬車は止まった。
「ワオオオオオオオン!」
犬の遠吠えが聞こえる。
「ちっ! しまった数匹そっちに向かうぞ!」
リーダーの声が前方から聞こえると、コボルトが数匹馬車に向かってきた。
「グルルルルル」
歯を剥き出し駆けてくるコボルト達は、身長は小学生の子供ぐらいで、狂った様な目をギラつかせ、痩せ細り、涎をたらし、泥や土に濡れて汚い。
(うわっ! 思ってたより気味悪いな)
レンはテレビでも見ているような感覚で、他人事のように見ていた。
一匹のコボルトの喉に矢が突き刺さり転がる。
レンの顔のすぐ横から杖がのびて、もう一匹のコボルトに炎の玉が放たれた。
「危ないって言ったろ! 邪魔だからそこを退け」
魔法使いの女がレンの服を掴んで馬車の中に引き戻そうとするが、レンはコボルトを見ていたくて、窓から離れない。
更にレンはもっと間近で見ようと馬車を降りて行く始末。
だがコボルトの一匹は狂った目をして、すぐ目の前に迫って来た。
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