第84話 ロジーナ
ヒダ王国王都にある冒険者ギルドの総本部では、レンの指名手配書が発行されていた。
戦争中に冒険者ギルドを襲撃し壊滅させて、冒険者を徴兵したからだ。
冒険者ギルド側からレン達に攻撃を加えた事は伏せられて世間には公表されている。
冒険者ギルドの総ギルドマスターを呼び出したヒダ王国宰相は告げる。
「これから友好条約を締結したい国の国王に、手配書とはいただけないな」
「いや、手配書の方が先ですからね。まさか建国して、しかもヒダ王国が戦わない方向に舵を切るとは思ってもいませんでしたよ」
「前置きは終わりにしよう。単刀直入に言おう。指名手配は取り下げろ」
「お断りします。むしろレンの国を攻める時は全面的に協力しますので攻めて下さい」
「なに! レンの国と敵対する事は国の存亡の危機なのだ。冒険者ギルドだって国が無くなれば存続出来まい」
「もう遅いですよ。レン暗殺の指名依頼を受けたAランク冒険者が彼の国に向かっています。戦争中立のギルドを攻撃されたのですよ。今更後には引けません」
「はあ? それも辺境街のギルドマスターが冒険者を集めてレンの村を襲撃し、大都市では冒険者達がレンの国の騎士であるコボルトを攻撃したのが発端であろう。それを隠している癖に綺麗事を抜かすな」
「魔物を騎士にするなんて間違っています。魔物は冒険者ギルドの敵ですからね」
「それもそもそもおかしいのだ。冒険者にもテイマーはいるだろう。魔物を仲間に……、そうか、それでテイマーズギルドと決裂したのだったな」
平行線をたどる会話は解決策が見つからず、互いの主張も変えない為、冒険者ギルドとヒダ国の会談は物別れに終わった。
アレス王国はヒダ王国との人の移動や通商を完全にストップしていた。戦時中の為、関所を越えて人も物も移動は出来ない。
そんな中でヒダ王国からアレス王国に入るには、山越えや森の中などで道の無い場所を行くしかない。
通常の人は魔物がいるために行くことは出来ないが、腕に覚えがある者は通ろうとするので、コボルト達が巡回し見廻りをしている事で入って来れる者はいなかった。
「ふふ〜ん。冒険者に取ってこんな森の中は楽勝なのだ」
森を進む者がいた。
気配を消して、警戒しながら進むその者を捉えられる魔物はいない。
しかし、嗅覚と聴覚に優れたコボルトの網を潜れなかった。
ザザッ………。
微かな音がして背後から襲うコボルト。
「甘い! とりゃあ」
素早く振り返り、コボルトのマチェットを躱しながら蹴りを放つ影。
「え! ……………か、可愛い! な、なにこの魔物! 初めて見たんですけど。モフモフじゃん」
その者は女性のAランク冒険者、名前はロジーナ。レン暗殺の指名依頼を受けてアレス王国に侵入を試みていた。
「やだー! こんな魔物殺せないわ」
ロジーナはビーグルのコボルトの攻撃を躱すと、後頭部に手刀を入れて気絶させてモフモフを満喫するのであった。
「…………いけない。こんなところでいつまでもこんな事をしてられないわ。明らかに罠ね。街に急がなきゃ」
後ろ髪を惹かれる思いでロジーナは、モフモフを途中で止めて、アレス王国の王都に向かうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます