第97話 出撃2

「エマ王国から密書は、やっぱり挟撃の申し入れだったな」


「同盟とかを結ぶの?」


 今日もレンの執務室で、レンとヘレナがヒダ王国との戦争について話をしていた。


「いや、エマ王国も次の標的は俺達なんだろうな。ただ同時にヒダ王国を攻めたいとの事だ。準備は出来ているので、先に行動は起こして欲しいらしい。何とも虫のいい話だ」


「あはは、あんたが攻めたら後ろからせめてやるって事? いいとこ取りじゃない」


「まあ、そうだね」


「だけど、エマを警戒して、今なら全力で迎撃出来ないチャンスではあるわね」


「そうなんだよなぁ。良し、ロバートに出撃させてヒダ王国に侵攻させよう」


「コボルト達は出撃しないのね」


 ロバート将軍は人間の常備兵を束ねている。


「ああ、南からロバート達。北からエマ王国が攻めれば、ヒダ王国の兵は北と南に出撃せざるを得ない。中央の王都をコボルトで制圧する作戦だ」


「アレスに誰も攻め込まない前提ね。大丈夫?」


「流石、ヘレナ。コボルト全軍は出撃しないので、もしもミノス王国が攻めてきたら防衛は任せるよ」


「はいよ。ミノス王国の数によっては戻って来て貰うわよ」


「ああ、その時は鳥でも飛ばして連絡してくれ」


「鳥ってねえ。ヤタって言う名前があるんですけど!」


「カーカー!」(そうだカー)


 ヘレナの側で八咫烏のヤタが鳴く。


「え? 鳥の眷属ってヤタしかいないの?」


「ふっ、そう言う事ね。私の眷属の全てを知りたいのかしら?」


「いや、いい………」






「何事かしら、城内が慌しいわね」

 リリスは横になっているセントバーナードのコボルト・ツヴェルフにブラッシングをしていた。


 毎日肉をあげて、やっとブラッシングの許可を得たのだ。


「わんわん」(気持ち良いワン)

尻尾を軽く振るツヴェルフ。


 これは同志ロジーナからのアドバイスに従っての成果だった。


「ちょっと聞いてきましょう」


 爺やが部屋から出ると少したってから、爺やとロジーナがリリスの部屋に入って来た。


「ああ! 同志ロジーナ、城内が慌しいみたいだけど、何かあったのかしら?」


「同志リリス、いよいよヒダ王国と戦争する事になった。私は陛下とともに出発する。暫く戻らないからそのつもりでいてくれ」


「ええ! 戦争………。わ、私も行くわ」


 立ち上がるリリス。


「わんわん?」(もう終わり?ワン)


「リリスさま、無茶を言ってはいけません」


 爺やが止めるも、リリスの意思は固く。


「レン様に直談判しにいくわ」


「いやぁ、無理だと思うわよ。少なくとも、私達と一緒に行動は出来ないわ」


「同志ロジーナ、どうしてなの?」


「同志リリス、幾ら同志とは言え、国の機密情報は他国の人には話せないわ」


「同志なのに! 何故?」


「バレて国外追放になったら、愛しのモフモフ達と離れる事になるからよ。私もそれ程馬鹿じゃないの。モフモフの為なら同志にも秘密は話せない。それがモフモフの守り人よ」


「くぅぅぅ、モフモフの事を言われると無理強いは出来ないわね」


「わんわん」(同志、同志、煩いワン)

 ツヴェルフが顔を上げた。


「ツヴェルフ、同志リリスの事は頼んだ」


「わんわん」(マスターに頼まれているワン)


リリスはロジーナが部屋を出て行くのを見送った。

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