第36話 突入!

 銀幕を覆い守る皮膜バリアの隙間をすり抜けると、ヴェルナードたち保安部員が銀色の壁の前に集まっていた。ボクらは機体を着陸させて、その輪の中へと合流する。


 手にした剣を眼前に構え、ヴェルナードが加護の力を刀身へと宿し始めた。

 翡翠色に発光した剣を刺突に構え、神速の一突き。銀幕に穴が穿うがたれる。


 だが、その穴は少しずつ縮まっていくと、最後には元通りに塞がってしまった。星を散りばめたような銀の壁には、もはや痕すら残っていない。


「……やはり加護の力を持続させないと、銀幕は再生してしまうようだ。アルフォンス、銀幕への扉を開く役目、任せてもよいだろうか」


「はっ! 承知いたしました。……ですがヴェルナード様。ご自身が銀幕の中に入らなくても……いや、なんでもありません。どうか、くれぐれもお気をつけて……!」


 心底気遣う気持ちで言葉を詰まらせたアルフォンスは一転、後ろの部下に号令をかける。


「よいか! 俺が刺した穴を起点に、四方に銀幕を切り裂くのだ! 続け、皆の者!」


 誰よりも早く抜刀したアルフォンスの剣に、加護の力が乗り移る。緑の刃を銀幕に突き立てると、保安部員数名も同じ箇所目掛けて、続けざまに突きを放った。


 銀幕の一点に交錯する緑の刃。


「———うおおおおおおおおおおおおっ!」


 アルフォンスの雄叫びが、銀幕に反響する。同じく気合の咆哮と共に突き立てた数本の剣が八方へ散り出すと、銀幕を引き裂き穴を大きくこじ開けていく。


「お早くヴェルナード様! 風竜の加護よ、どうかヴェルナードに御武運を……!」


「さあ行くぞ! 20騎私についてこい! まずは保安部員我々で中を探索するのだ!」


 右手の剣を猛々しくかざし、左手で手綱を操るヴェルナードはそう言うや否や、銀幕内へと先陣を切る。勇ましい声を張り上げながら、騎馬20騎がその後に続いた。


 航空部員ボクらの出番はもう少し先。ボクは銀幕にゆっくり近づくと、開けられた穴にひょこっと顔だけ出して中を覗き込む。やっぱり銀幕内は広く、そして薄暗い。ヴェルナードたちがいる場所も、淡緑の剣の光で僅かながらに分かる程度だ。


 ヴェルナードたちの所在を示す、その覚束ない光源が突如乱れ始めた。

 地面から垂直に伸びていたはずの、剣の光が右に左に揺れている。


 ……いや、あれは揺れているんじゃない。


 ———剣を振るっているんだ!


「アルフォンスさん! ヴェルナードさんたちが何かと戦っているみたい! 急いで援護に行かないと!」


「ぐぬぬ……我らはヴェルナード様の帰り道を確保するのが役目……! クラウス、ここは其方らに任せる」


「おう! アルフォンスのダンナ! お前たち! ヴェルナード様の加勢に行くぞ!」


 クラウスが檄を放ち、ボクらは自分の機体へと駆け戻る。

 ボクはマクリーをまたまた座席から引っこ抜くと、急いで銀幕の穴へと駆け戻った。


「アルフォンスさん! 大分加護の力を消耗しているようだから、ちょっと補給してね」


 もはや諦めたマクリーが悟り顔で、剣で銀幕の穴をこじ開けているアルフォンスたち八人の体に触れていく。


「———おおおおおっ! 加護の力が体に流れ込む……! これでこの穴も、まだまだ維持できるってものだ! かたじけない、マクリー殿!」


 銀幕の突撃口を作り出している剣の光に一際強い輝きが戻り、アルフォンスたちは体制を整え直した。


「さあ、行け! ヴェルナード様の元へ!」


「……うん! 行ってくる! 頑張ってねアルフォンスさん!」


 こわばらせた顔を少しだけ崩し、アルフォンスは小さな声で「心配は無用」と応えてくれた。


「よし! 今度こそ本当にいいな! いいか、絶対に油断するなよ! なんとしてでもヴェルナード様をお守りするんだ!」


 そう言い放ったクラウスを先頭に、一機、そしてまた一機と、人翼滑空機スカイ・グライダーが銀幕内へと突入した。

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