第24話 保安部の任務 〜その1〜

 ヴェルナードの計らいでブラック企業顔負けの製造部資材調達班(通称雑務係)から、『モン・フェリヴィント』のキッズたちの間では『将来配属されたい部署NO.1(ジェスター調べ)』と呼び声が高い保安部へ異動となったボクとジェスターはヘルゲに別れを惜しむ間もなく、翌日から任務に赴いた。


『モン・フェリヴィント』の住人の多くが生活を営む町は、全長700m以上ある風竜の腰の辺りにあるらしい。


 そして保安部の駐屯地は町の北、広大な草原の先にある左右一面に広がる森を抜けた辺りで、ちょうど風竜の背中辺りなんだとか。


 風竜の全身を見たこともないボクに腰だとか背中だとか言われてもいまいちピンとはこない。


 ただ、竜の体を基盤とする『モン・フェリヴィント』が思っていた以上に広く、まだボクが見た事のない景色があると分かったら、なんだか心がちょっとだけ解放された気持ちになった。


 資材調達班の任務で東の森や西の鉱山にはちょくちょく行っていたけど、町の北側への移動は初めてだ。


 CRF250Rマシンを北へと走らせて、草原と森を越える。次第に草木が減り始め砂地が広がり出し、所々に円錐状の岩々が隆起していた。


 さらに進むと、大きな壁の様に広がる小高い崖につき当たる。

 

 その崖を背にする様にして町のアパートくらいの大きさの建物が二つと、やや小ぶりだがしっかりとした造りの建物が一つ、さらには厩舎が五つある。


 ここが保安部の本拠地だ。


 保安部は、部のリーダーでもあるヴェルナードが班長を兼任する地上保安班と、『3つの月章サードムーン』のアルフォンスが班長を勤める警ら班の二班で構成されている。

 地上保安班は外部からの侵攻に対抗する力であり、警ら班は『モン・フェリヴィント』内部の治安維持に尽力している集団らしい。


 自衛隊と警察みたいなものなのだと、ボクは勝手に理解した。


 ……それにしても、『モン・フェリヴィント』の指導者で、保安部のリーダーと地上保安班の班長も兼任だなんて、ヴェルナードさん。どれだけ頼られてるんだよぉ。


 朝早くから部下にテキパキと指示を出すヴェルナードに着任の挨拶を済ますと、アルフォンスから制服を受け取った。


 タックが入れられピシッとした白のズボンと、襟に金の刺繍が縫われた白いシャツ。製造部のカーキ色の野暮ったい作業服よりも数段カッコイイ。


 ジェスターはトランペットに憧れる少年の様な目をしながら、手にした制服をうるうると眺めていた。感無量といった表情だ。


 ……お願いだからこの先、肩筋剥き出しでワイルドに着こなしなすアルフォンスの真似だけはしないで欲しいと願いたい。


 ヴェルナードに警ら班配属の拝命を受け、任務についての注意事項や建物の説明など一通りの説明が終わると、アルフォンスに連れられて整然と並ぶ班員たちとのご対面だ。


 だけど流石に強面アルフォンス率いる班員たち。製造部とは違って青二才丸出しのボクらを見ても、頭から見下す様な真似は誰一人としてしなかった。しっかり統率が取れている。

 ジェスターが言っていた様に、保安部は人気がある部署なので必然と優秀な人材が集まるし、何よりも任務で毎日馬を乗りこなす彼らにとって、見た事もないCRF250Rマシンと一緒に配属となったボクたちへの興味が勝っているのかもしれない。


 おっとそうそう。馬と言えば、『モン・フェリヴィント』の馬はボクが知っている馬とはちょっと違う。


 長く逞しい脚と首、そして愛くるしい瞳はボクが知ってる馬と変わりはないんだけど、額に小さな角があり尻尾がタヌキの様にぽわっと太くて何ともカワイイ。


 この馬を機動力にして、地上(と言っても正確には地上じゃないのだけど)の秩序を守る事が、保安部の大前提であり重要な任務となる。


 ヴェルナードの事だからあの時CRF250Rマシンを乗りこなすボクを見て、保安部の役に立つだろうと思ったのなら……やっぱり抜け目のない人だ。


 30名ほどの班員が集まる中でアルフォンスからの紹介が終わると、ボクたちの周りにはあっという間に人の輪が出来上がった。


 まあ、皆のお目当ては班の中で紅一点となるボクではなく、残念ながらCRF250Rマシンの方なんだけどね。


 それでも和やかな歓迎ムードが漂う中、ボクがバイクの基本操作を丁寧に説明すると勝手に盛り上がる班員たちに押し切られる形で、CRF250Rマシンの試乗会が開催された。


 だけど当然の結果と言えばそれまでだが、今までバイクに一度も乗った事がない人が、車高の高い競技仕様のCRF250Rマシンをいきなり乗りこなせる訳がない。

 三人目の挑戦者が豪快に転倒し、顔面蒼白で涙目になったボクを見かねたアルフォンスが「これ以上はその乗り物もカズキも壊れてしまいそうだ」と、試乗会を中止してくれた。


 かくしてボクは、まだ愛馬を持たないジェスターとバディを組んで、CRF250Rマシンで町周辺の巡回という任務に就く事になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る