第25話 保安部の任務 〜その2〜
後輪が砂を蹴り上げ砂塵を作り、ジェスターを後ろに乗せて
今日は町の巡回へと向かう日だ。
最初は怒られたり注意される事が多かったけれど、最近ではボクらの任務っぷりもかなり様になってきた様に思う。ボクは今日やるべき任務内容を頭の中で確認した。
町に着いてまずやることは、町の周りの巡回だ。
ボクらの地盤は空を飛ぶ風竜で、地面の下は竜の皮膚なのだ。地形の変化はすなわち竜の変化だ。外面的に変化があれば、それは何か不調や病気のシグナルかもしれない。
もちろんそれが分かったところで、いくら衛生部のゲートルードでも竜の治療なんてできないのだけど、記録に留めて警戒する事はできる。
町の治安を守るだけじゃなく、町周辺の地形を覚えてつぶさに異常を察知する。
これも保安部の立派な任務なのである。
「わぁー! かっこいい!」
ちょうど町の北側の正面入り口に差し掛かった時、親に連れられ遊んでいる子供たちが手を振ってきた。
ボクたちは軽く手をあげて、子供の掛け声に笑顔で答える。
先述の通り保安部の人気は高い。
最初は『
案の定、子供たちからはたちまち人気者になり、今日も羨望の眼差しを投げられた。
ふふふ。悪くない気分だね。ちょっとしたヒーローにでもなった心地だよ。
特に女の保安部員は珍しいらしく、キッズたちだけでなく一部の若者の間でも人気に火が着き始めている。
町の中をキリっとした表情で巡回していると、今日も黄色い声が飛んできた。
ふふふ。ボクも捨てたもんじゃないね。
「きゃー! カズキ様!」
「こっちを向いてくださいまし!」
「今日も凛々しいお姿で!」
……すいません。ちょっとだけ見栄を張りました。一部の女子からなんです。
「何度も言ってるだろー! ぼ、ボクは女だーーー!」
「「「はいー♡ 存じております!」」」
『モン・フェリヴィント』の風紀と秩序は乱れていると思う。保安部としてここれは由々しき事態だ。
「くっくっくっく。……カズキ。相変わらず人気あるなぁ……女に」
「う、うるさーい! へらず口を叩いてると振り落とすよ!」
ボクはアクセルをグイッと開けて、軽くウイリーするくらい急加速する。
「わ、わわっ! そんな急加速するなよ! 落っこちちまうだろ!」
慌てたジェスターがボクの腰にしがみついた。その力強さにボクの心はとくんと波打つ。
新米保安部員のボクたちは巡回任務は一日置きで、それ以外は駐屯所で基礎体力作りと護身術の訓練だ。
保安部たるもの、いざという時の為に他人を守る力がないといけない。
風貌からの想像通りアルフォンスの訓練はベリーベリーハード過ぎてボクはついていくのがやっとだけど、ジェスターは嬉々として訓練を受けていた。
最初に見た時はお子ちゃまだったジェスターの腕が、こんなに逞しくなるなんて。
先輩先輩と持ち上げていたものの、弟みたいだとこっそり思っていたジェスターの変化が嬉しい様な、恥ずかしい様な。
ドキっとしたのはただ不意を突かれただけなんだと、そんな自分に言い聞かせる。
空を見上げるといつもの様に雲は速く『モン・フェリヴィント』は今日も快晴だ。
ようやく訪れた安穏な生活を揺蕩う様に過ごし気がつくと、時計の針は二ヶ月あまりが過ぎていた。
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