第77話 秘密兵器

「マクリー! もっと急いで!」


「これ以上急げませんよ! 本当にカズキは風竜使いが荒いのです」


「アンタやればできるでしょ!?  自分の限界を決めないで! ほら、スピードアップ!」


 ボクらは落下でもしているかの様に、今度は真っ逆さまに下降をしている。


 銀幕突入からこれまでの時間は、体感だけど15分程だと思う。


 マクリーが風竜の体制を維持し、竜翼競艇機スカイ・ボートを操れる時間はまだ残されている。


 その残り時間の中で何としてでも銀幕のコアを破壊しなければならない。


 きっとクラウスたちも苦戦しているだろう。その証拠にボクらはまだ、銀幕内の暗闇の中だ。コアを破壊できていれば、この銀幕内にも何かしらの変化はある筈だ。


 上昇と同じスピードで下降を続けると、ぼんやりと淡い緑色の光が揺らめくのが見えた。


 人翼滑空機スカイ・グライダーの光は10を超えている。下部へ向かった探索チームが合流したのだろう。ボクはまだクラウスたちが戦っているのだと、無事でいたのだと、一安心した。


 だけどその安心は、下降を続け距離を詰めると粉々に打ち砕かれた。


 遠目からでも見える触手に10機が捕まり、コアの周りでもがき蠢いている。


 クラウスの叱咤激励がボクの耳にも届いてるので、残機を従え何とか味方を助けようとしているのだろう。



 なんてこった!! クラウスさんたちでもあのコアは倒せないのか!



 ボクは下降しながら覚悟した。


 いよいよ竜翼競艇機スカイ・ボートの秘密兵器を使う時だと。



「マクリー! 最後の手段だ! ……アレを使うよ!」


「ちょ、ちょっと待ってくださいカズキ! あ、アレを使ったら、吾輩、完全にエネルギー切れになります!」


 二日間の飛行訓練で試した時に、判明した事実だ。


 どうやらまだマクリーには加減が難しいらしい。だけど今は出し惜しみしている時じゃない。


「そんなの分かってるよ! だけどここは一か八かの勝負所でしょ! 仲間を助けるの! 『モン・フェリヴィント』の皆を助けたいんだ!」


「……言っても聞かないところは吾輩と似てて、やっぱりカズキは吾輩の親代わりなのです。これが終わったら、大盛りのドングリで吾輩をいっぱい褒めてくださいね!」


 コアがこの世界のエネルギーを吸い取って、マーズに送っていると言っていた。


 あのコアはエネルギーを吸って送り出すポンプの役目をしているのだと推測できる。それならば、ボクとマクリーの奥の手が通用するかもしれない。


 その証拠に、クラウスたちの攻撃でコアは二回りほど、肥大している様にも見える。



 ボクは下降を続けたまま、コックピットを足場にして立ち上がった。


 モロに受ける風圧で後ろに飛ばされない様にお腹に力を入れ、足を踏ん張って体制を維持する。


 元々それなりに鍛えていた体に、アルフォンスの特訓しごきでボクの筋力は増しているのだ。


 これくらいの風圧なんてへっちゃらだよ! ボク、脱いだらすごいんだから! ……女性特有の膨らみはないけどね!


 自虐的な気持ちを燃焼させてさらに闘争心を高めると、機体に帯びた緑の光を人差し指で軽くすくう。


 左目をつむり、ポワッと光った人差し指で、瞼の上に十字を描く。


 開けた右目の視界に、緑に光った十字の照準が浮かび上がった。



「じょ、嬢ちゃん! なんで戻ってきた!」


「その説明は後でクラウスさん! 捕まってるみんな! できるだけ球体から離れて!」


 速度を落とさずコアへと迫る竜翼競艇機スカイ・ボートに気付き叫ぶクラウスを遮って、ボクは避難勧告をする。


「そんなに人のものが欲しいなら、ボクがくれてやるよ! ボクの大切な人たちへの想いが募った、特Aクラスのメガ盛りフルコースだ。……絶対に食べ残すんじゃないよ!」


 ボクは右手を突き出し左手を添え、引き金を引く格好をした。


 下降を続け、コアとの距離はさらに縮まっていく。


 突き出した右腕と、視界に映し出された緑の十字の照準が、ぴったり合う様に調整する。


 そして膝の間に挟み込んだステアリングホイールを小刻みに動かし、航路を修正しながらターゲットを捕捉する。


 全てが軌道上に並んだ瞬間、人差し指を引き絞る動作と共に、大声で叫んだ。



「——————マクリー砲、発射!!!!」



 竜翼競艇機スカイ・ボートを包み込む緑の皮膜が一気に先端に集まると、特大の球体へと形を変えて、前方へと発射された。


 それは確実にコアの中心へと、薄暗い銀幕内を明るく照らしながら勢いを増しつつ向かっていった。

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