第12話 整備班のリーダー登場

 結局、何もまとまりはしなかった会談が終わったその翌日。


 ボクは晴れない気持ちのまま任務に就いた。唯一の救いと言ったら、飛行訓練がない事くらい。今日は人翼滑空機スカイ・グライダーの点検を整備班と一緒に行う日なのだ。


 人翼滑空機スカイ・グライダーの骨子となるフレームは、風竜の古い皮膚———カモーナで造られている。


 カモーナは軽量だけど強度は鉄よりも劣る。小さな亀裂でも油断は禁物だ。飛行中みるみるうちに亀裂が広がり、命を落としかねない大事に繋がる恐れがあるのだ。

 

 なのでパイロット立ち合いの元、整備班が五日ごとに人翼滑空機スカイ・グライダー竜翼競艇機スカイ・ボートをくまなく点検、整備をしてくれる。本日非番のチェスの機体も、漏れなく点検を行っている最中だ。


「お前が……カズキって娘っ子か?」


 唐突に背後から声を掛けられた。その人影に気づいた整備班の面々が、揃って背筋を伸ばして敬礼をする。


「挨拶が大分遅れたな。俺の名はキアフレート。航空戦闘部整備班を任されてる。クラウスとはガキの頃からのダチでな。まあ腐れ縁の悪友ってヤツだ。ウハハハハハハハ」


 クラウスと同じくらいの年齢と背丈の男はそう名乗ると、豪快に笑い声を上げた。ロングコートの下に着込んだスカイブルーの制服の襟に、『3つの月章サード・ムーン』の紀章が見え隠れしている。


 紺の長い髪を一つに束ねたキアフレートは、クラウスと違って彫りが深く、男らしい顔立ちだ。そして異なる点はそれだけではない。右足が義足だった。右手には杖を持っている。



 ……あ、もしかして前にクラウスさんが「紹介したい人がいる」って言ってたのは、この人の事なのかな?



「は、はじめまして。若月和希です」


「噂だと、どえらい事をやってくれる将来有望な『1つの月章ファースト・ムーン』らしいじゃねえか。これからもよろしくな。機体の整備の事なら、朝だろうが夜中だろうが俺たちに遠慮しないでなんでも言ってくれ。戦いで共に命を張れない分、整備は命懸けでやらしてもらうぜ」



 キアフレートはそう言うと、再び哄笑を響かせる。声は大きく太いけど威圧感は少しも感じられない、どこか頼れる笑い声だ。


 クラウスさんとは小さい頃からの友達だと言っていた。……もしかして、この人なら。



「き、キアフレートさん。初対面で申し訳ないんだけど、ちょっと話しがあるんだけど……今、いいかな?」


「おうよ、なんでも言ってみな。遠慮なんてするなよな。俺たちは機体の整備しかできないからな。パイロットが気持ちよく空で戦う為なら、労は惜しまない。大概の事は聞いてやるぜ」


「あのね、実はクラウスさんの事なんだけど……」


 ボクの神妙な面持ちとその言葉に、キアフレートの男らしい笑みが表情から消え失せる。



「……カズキ、着いてこい。少し場所を変えて話そうか」

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