第11話 溝の深さ
アルフォンスとクラウス———とにかく二人と同席して話しをしなければ、仲を取り持つ事なんてできやしない。
アルフォンスに対してはジェスターに会談の事付けを頼むと、翌日ボクはクラウスに話をした。ジェスターと連絡を取り合って、両者の都合の合う日が二日後と分かると会談の準備に取り掛かる。
当日はエドゥアも呼んで、ボクたち五人と一匹は航空戦闘部の駐屯所に集まった。
腕を組み目を閉じているアルフォンス。いつにも増して眉間のコブが、山脈の様に連なっている気がする。
そしてさらにその態度の上を行くクラウスは、無作法にも机の上に足を乗せ、椅子を傾けてゆらゆらと揺れていた。ヴェルナードがこの場にいないだけで、この有様だ。
エドゥアに至っては武闘派二人の不穏な空気にすっかり呑み込まれ、どうしてよいか困った表情を浮かべる始末。
互いの上官の隣に座るボクとジェスターは、顔を見合わせため息を吐いた。
やや大きめの机を中心に醸し出されるこの雰囲気は、はっきり言って最悪である。
……この場でボクに一体どうしろと!? ヴェルナードさーーーん!!
だけど、心の中で絶叫をしているだけは何も始まらない。
会談の発案者であるボクは、重い空気に押されながらも口火を切った。
「え、えっとね……今日集まってもらった議題はね、今後、空賊に対する対応を少し変える為なんだ」
「対応を変える? 何をどう変えるって言うんだい、嬢ちゃん。降りかかる火の粉は全力で払い除ける。それじゃいけないってのかい?」
クラウスが開口一番、話の腰を折ってきた。そもそも彼は、この会談を嫌がっていたのだ。「ヴェルナードの要望で」と付け加えなければ、きっと断り続けただろう。
「払い除けるの、ってのは間違っちゃいないけど、やり方を変えるだけだよ。これからはできる限り、生かして捕らえたいんだ。そもそもさ、
「それじゃ保安部に生け捕りにされちまって、アルフォンスのダンナたちの手柄になるじゃねーか」
———はいそれ!! 何でそこで張り合うの!?
そういうのは今後やめて協力し合おうって話なのに、先に拒否られてしまった。
「……カズキよ。保安部は
アルフォンスはヴェルナード邸での話を一部始終聞いているので、ヴェルナードも賛成したボクの案に、もちろん反対の意思はない。この言葉はアルフォンスなりの、最大の援護射撃なんだろうと思う。
「……へっ。俺はやだね。ダンナたちと協力して空賊を生捕にする? そもそも何でそんなしち面倒な事しなきゃなんないんだよ」
「そ、その問いには、俺が答えよう」
足を放り出しそっぽを向くクラウスに、エドゥアが「『モン・フェリヴィント』イメージアップ大作戦」と「姉妹都市設立」を説明し始めた。もちろんヴェルナードお墨付きだとも言い添える。
クラウスは話しを聞きながらボクを見た。その目が「どうせ嬢ちゃんが考えた事だろう?」って物語っている。
エドゥアの丁寧な説明が終わると、ボクはもう一押しお願いする。
「……クラウスさん。そういう訳だから、これからはなるべく空賊が襲ってきても、豪快に撃ち落とさないで欲しいんだ。保安部と協力して、空賊捕獲に協力してよ。ね? お願いだから」
今後の『モン・フェリヴィント』の方針を、クラウスは理解できていない訳じゃない。むしろエドゥアの説明を、興味深く聞いていた印象だ。
だが、それを上回る何かがあるのか、クラウスは鋭い視線をアルフォンスに向けた。
「……アルフォンスのダンナ。俺はまだ、アイツの事を許しちゃいないんだぜ」
「……俺は今でも、あの時の判断を間違っていたとは思っていない」
アルフォンスもクラウスの眼光を、真っ向から受け止めた。
無言で睨み合う二人。何があったか知らないけど、これじゃ話がまったく進まない。空賊を捕縛する以前の問題だ。
言葉巧みに「『モン・フェリヴィント』イメージアップ大作戦」と「姉妹都市設立」を説明したエドゥアもお手上げといった状態で、ボクを見ると小さく首を横に振った。
「———もう! いい加減にしてよね! ヴェルナードさんが『国』を作りたいって言ってるのに、二人がいがみ合っていてどーすんのさ!」
ボクは机を叩き立ち上がった。
心に何かの重りを乗せて、その感情を必死に押さえ込んでいる二人より、こっちが先に爆発してしまった。
「……ヴェルナード様のお考えは理解した。国作りにも協力する。だがダンナと……保安部の連中と協力するって事だけは、今この場ですぐに返事はできない。……ちょいと考えさせてくれ」
そう言い残すとクラウスは席を立ち、駐屯所の扉を開けて一人退出してしまった。
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