第4話 人翼滑空機(スカイ・グライダー)

 翌日になりボクたち希竜隊は、チェス、フェレロ、パーヴァリの三人と飛行訓練を行うことにした。それと同時に本日は、我が希竜隊への機体配属の日でもある。

 

 駐屯所の隣にある倉庫からボクらの元へ、二機の人翼滑空機スカイ・グライダーが台車に乗って運ばれてきた。


 そういえば、こんなマジマジと人翼滑空機スカイ・グライダーを見るのは初めてだ。


 矢尻に似た白い翼からポールが伸び、それが三角形を作り出している。ここまではボクも知るハンググライダーに似ているのだけど、操縦の要となる水平のポールがちょっと違う。


 三角形の底辺となるポールには、鉄製の操舵グリップが左右に付いている。ここから加護の力を流し込み、人翼滑空機スカイ・グライダーに推進力を与えるのだ。また、この操舵グリップを前後に傾けることで、翼の傾きを調節して舵を取る。


 そして操舵グリップに挟み込まれる形で取り付けられた太いノズル。銃口にも似たそれが、風の飛礫の発射口だ。ノズルの上部には小さな円形の突起物が付いている。おそらく照準器だろう。


 操縦者が体を預ける三角形のポールには、ベルト付きの小さな台座も付けられている。腰くらいまで乗せられるこの台座に体を固定させる事で、飛行中、常にうつ伏せ状態の体の負担を軽減できる仕組みになっているのだ。


 希竜隊に配備された人翼滑空機スカイ・グライダーは未使用の新しい機体の様だ。ピカピカに輝いた人翼滑空機スカイ・グライダーを前にして、チェスとフェレロが目を輝かせる中、ちょっとした問題が発生した。



竜翼競艇機スカイ・ボートはカズキと吾輩以外、乗ってはダメなのです」


 ここでマクリーの我儘が発動したのだ。



 通常『隊』には人翼滑空機スカイ・グライダーが三機が配備されていて、それを四人の班員が受け持っている。

 三勤一休の任務形態なのだから、誰か一人が必ず非番となる。そのため三機四人体制で機体を使用、管理していくのだけど、ボクの竜翼競艇機スカイ・ボートは機体のベースが競艇ボートで作られた特別機。


 その翼も通常の人翼滑空機スカイ・グライダーより大きいし、何しろ重量がある。通常の班員がマクリーの力を抜きにして、自分の加護の力のみで飛行するのは無理というものだ。


 

 だが、それは建前だ。ボクの本音はまるで違う。


 ———竜翼競艇機あれはボクのものだよ! 他の誰も乗せたくない!



『隊長』としてあるまじき考えかもしれないが、この独占欲ばっかりは仕方がない。理屈じゃないんだ。愛しくて大切な竜翼競艇機スカイ・ボートに他人を乗せたくないと、ボクの心が叫んでいる! 


 ボクが非番の時に誰かが竜翼競艇機スカイ・ボートを乗ってる姿を想像するだけで、心がモヤモヤしてしまうのだ。



 ……まさか、これがNTRって心境なのか。



 彼氏すらいた事がないボクには、詳しくは分からないけど、きっとその気持ちに近いものなんだろうと思う。だから、ここはマクリーの我儘を盾にして、全面的にその案を後押しする事にする。


 それに竜翼競艇機スカイ・ボートは競艇ボートとしての操舵技術も必要なのだ。


 ……うん。他人を乗せない立派な理由の後付けできたよ。



 だがそうなると、ボクが非番の時、出動できる機体は二機のみとなってしまう。

 ボクはすぐさま駐屯所に駆け込むと、クラウスにこの事を相談した。


「ま、そんな事情じゃしょうがねーな。特別にもう一機、融通してやるよ」


 クラウスは何の疑いもなく、近くにいた班員に指示を出した。もしこの場に副官のコルネーリオがいたら、こんなにも事がうまく運ばなかったかもしれない。



 あっさりと機体の補充を勝ち取ったボクは、新品の人翼滑空機スカイ・グライダーを台車で運ぶ班員と一緒にみんなの元へと戻った。その姿に三人が驚きの表情を浮かべている。


 戦闘班長のクラウスや副官のコルネーリオは別として、他の班員には自分専用の機体という概念はない。だけどこれで希竜隊には全員に、人翼滑空機スカイ・グライダーが与えられた事になる。


「自分の機体が持てるなんて夢みたい……カズキ殿、ありがとうございます!」


「うおおおおおおおおおおおぉぉぉ! お、俺の機体……俺専用の人翼滑空機スカイ・グライダー。……俺、カズキ様に一生付いていくっスぅぅぅ!」


 自分専用の機体を所持できることは、戦闘班員にとっては憧れの様だ。

 フェレロは素直に感激し、チェスは全身を使って喜びを解放した。



 ……うん、チェス。君、ボクより暑苦しいね。

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