第66話 クラウスの報告
翌日になり、航空戦闘部の銀幕調査の報告と今後の対策について会議が行われた。
場所は保安部の建物内。参加メンバーはヴェルナードとアルフォンス、航空戦闘部と航行部のリーダーであるクラウスとナターエルはもちろんの事、ボクとマクリー、そしてボクのたっての要望でヘルゲも同席している。
「ではクラウス。まず始めに昨日の調査報告から聞かせて欲しい」
長い机の片側に、全員と対面する形で一人鎮座するヴェルナードの言葉を受け、クラウスが小さく頷き話し出した。
「……目視だけでの確認ですが、直径2〜300mはあったと思います。銀幕にはある程度まで接近できました。だけどある一定の距離からそれ以上は近づく事ができませんでした。押し戻されるというか、銀幕から逆風が吹いているのか……上手くは言えないのですが、とにかく
クラウスはそこで一旦話を切ると、コップの水を含み口を湿らせる。
「……一瞬ですが開いた穴の奥に、蠢く何かが見えました。銀幕は芯のしっかりした柱ではなく、中は空洞になっていると思います。そしてこれは断言できますが、銀幕の中に得体の知れない何かが潜んでいます」
「……なるほど。思った以上の収穫だ。よくやってくれたクラウス。同行した部員たちにも、労いの言葉を其方から伝えて欲しい」
「恐れ入ります。ヴェルナード様」
クラウスの言葉を区切りに、暫く誰もが口を閉ざす。その報告を聞いて、皆思い思いに思慮をめぐらせている様だ。
ボクもむむむ、と考え込む。
銀幕撃破の鍵を握るのは、確実にその中にある何かって事だよね。そして昨日のあの出来事…………。
だけど
「……マクリーは風竜の航路を変えられるからさ、この風竜ごと銀幕に突撃しちゃダメかな?」
ボクの思いつきの発言に、場にいる皆が唖然とした表情を向けてきた。
「……無茶言うねぇ嬢ちゃんは。実際近づいた俺たちの所感だけど、それでもちと無理がある気がするがね」
「風竜自体の質量ならばと考えた様だが浅はかすぎる。無策にも程がある。却下だ」
ヴェルナードにもダメ出しを食らってしまった。皆の刺さるような視線が痛い。
「……ねえマクリー。アンタ仮にも風竜の後釜でしょ? 何かいい考えないの?」
「失礼な。仮に、ではありませんよカズキ。ちゃんとした後継竜ですよ。…………だけど吾輩の頭脳を持ってしても、どうすればいいのかよく分からないです」
皆の注目が一瞬マクリーに集まったが、その回答に誰もが小さく肩を落とす。だけどナターエルだけは俯かなかった。クラウスの方へと向き直る。その黒い瞳には落胆の色はない。
「クラウス殿。加護の力……風の
「ああ……確かにそうだな。風の
「……舵をとる為に風竜には、航行部から加護の力を伝送する風力管の排出口が10基ずつ、両翼に取り付けられています。ならば片翼の排出口を逆に向け、翼前面に加護の力を噴出してみてはいかがでしょう。言わば『加護の防御壁』を作り出すのです。風竜全身は無理としても、その片翼だけなら、謎の皮膜の干渉を受けずに、銀幕の中へと突入できるかもしれません」
「……なるほど。
「ええ。ただしかなり危険な試みになる事には間違いないと思います。それに風竜の体勢を維持するために、もう一方の翼からも逆方向へ加護の力を同等に放出する為、あまり長い時間は稼げませんが……」
だけど
もしも加護の力が一定量を越えれば謎のバリアの干渉を受けないという仮説が成り立てば、ナターエルの言っていた様に、僅かばかりではあるがこの巨大な風竜の航路を修正する数十人がかりの加護の力———風力管からの出力を利用して、銀幕内部に到達する事が可能かもしれない。
なにせ『モン・フェリヴィント』の皆にとっても、銀幕との
何が正解なのかなんて答えは出ない。
風の
この先必要なのは、勇気と決断力だろう。
皆の視線が少しずつヴェルナードへと集まり出す。
静寂を纏い深く考えて込んでいたヴェルナードはゆっくり目を開けると、一度皆を見渡した。
この場に逡巡の色はない。
それを見て噛み締める様に頷くと、その決断に迷いはなかった。
「クラウスの持ち帰った情報を元としたナターエルの提案を採用しよう。航行部は製造部と連携を取り、風力管の改造に着手せよ。航空戦闘部は突撃隊を選出し、銀幕内部の調査並びにその破壊を前提とした作戦を構築する。保安部は航空戦闘部が無事銀幕内部まで到達できる為の護衛任務に当たる。……何か異議のある者はいるだろうか」
「はい!」
元気よく手を挙げたボクに、驚愕の表情を浮かべた皆の顔が一斉に向けられた。ヘルゲ以外の全員が「何言い出すんだコイツ」って顔をしている。
「いや……異議って訳じゃないんだけどね。その航空戦闘部の突撃隊に、ボクも入れてくれないかな?」
「おいおいおい……一体何を言い出してんだ。自分の
「そんなの分かってるよ! ……だけど、あの銀幕はもしかしたらボクがいた世界と繋がっているかもしれないんだよ!」
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