第30話 町を守る戦い 〜その3〜
逃げ惑うその女性が倒したものなのか。道には樽や木箱が散乱している。
ジェスターが降りるのと同時に、ボクは女性目掛けて
屋根の高さくらいで滑空していた
道の端と端から、道中央に横たわる女性目掛けて互いに距離を詰めていく。
ボウガンの照準は、女性ではなくボクに狙いをつけている。
「カズキ! ボウガンがくるぞ!」
ジェスターの声が背中に届く。
分かってる。
だけどこのままボクがUターンしたら、あの矢尻は女性に向けられるだろう。だったら逃げられない。
それにこっちだって無策じゃない。
ボクは小刻みに体を振って、
一発目の矢を躱し、続けて放たれた二発目の矢が鋭い風切り音を残してボクの耳元を掠めていく。
二発の射撃でその間合いを掴んだのか、
表情が分かるくらいに互いの距離は近い。
絶対的優位に立ったものが見せる確信の笑みを浮かべ、男の手元から三発目が発射された。
左右に揺れるボクの顔はまるで計ったかの様に、放たれた矢の予測軌道上に吸い寄せられる。
一瞬のうちにして矢尻がボクの眼前に迫った。
———当たる。咄嗟に思ったのは、それだけだった。
『危ないっ!』
耳の奥に響いた声に合わせて、突然眼前に風の球体が現れた。確実にボクの眉間に到達するはずだった矢が「ばいん」と弾かれる。
「———えっ!?」
咄嗟に声を上げたボクに、男も驚き目を見張る。
矢は確実にボクの額を捉えてた筈だ。
だけど突如として目の前に玉っころが現れて、矢を防いでくれた。ボクの命を救ってくれた玉っころは、もう消えている。
……なんだか分からないけど助かったよ!
女性を挟んで男との距離はもう10mもない。男の苛立ちと憎悪が混じった顔は、今にも舌を打ちそうだ。男は女性の手前で左手の操作レバーを手前に引くと、本当に舌打ちをしながら急浮上した。
———ここまできて、逃すわけないでしょうが!
ボクはアクセルを絞って加速し前輪を浮かせると、女性の手前に転がる樽と木の板を踏み台して、高く高くジャンプした。
「うおりゃあああああ!」
「———ぐはぁぁ!」
男を豪快に吹き飛ばしボクは、体制を立て直し着地した。
すぐさまアクセルターンで回頭すると倒れた男の側に行く。
つなぎの様なパイロットっぽい服を着たその男は、口から吐瀉物を撒き散らして倒れていた。死んではいない様だけど、ピクリとも動かない。
駆けつけたジェスターが男の右手からボウガンと、腰からぶら下げた火炎瓶をベルトごとはぎ取った。そのベルトを使って男を後ろ手で縛り上げる。
ボクが
「もう……大丈夫だよ」
女性を慰めていたボクが馬蹄の音に振り向くと、ヴェルナードがお供を引き連れやってきた。翼が折れた
「カズキの声が聞こえたので来てみれば、これは一体……?」
「ヴェルナードさん。ボクとジェスターで一人捕まえたよ!」
ボクの性格とは裏腹に、控えめな胸を目一杯反らしてふふんと言う。
「あと、この人怪我をしているから、手当てをした方がいいよ」
「その女性の手当ては引き受けよう。……だがカズキ。あまり無茶はせぬ様に。其方の任務は避難民の誘導だった筈」
「分かってるよ。分かってるけど……目の前の困った人は放ってはおけないだろ!?」
人差し指を立てて力説するボクを冷ややかな表情で見ていたヴェルナードは、少しだけ顔の力を緩めると、いつもの分かりにくい笑顔を見せた。
「そう……だな」
「ヴェルナード様。他にもまだ避難していない住人はいるのですか?」
「いや、もう全ての住人は東の森へと誘導した筈だ。後は奴らの撃退だが、ようやく航空戦闘部が到着した様だ」
空を見上げたヴェルナードの視線を追うと、上空の黒い
そしてそれを追う様にして白い
「なあカズキ。……お前は大丈夫なのか? 後ろからだからはっきりとは分からなかったけど、ボウガンの矢が当たった様に見えたんだけど……」
「ああ、大丈夫だよ。なんかたまたま矢が避けてくれたんだ」
そんな訳ないのはボクが一番理解しているけど、今はそう言っておこう。
だけどあの声……前にも聞いたことがある。
男の子に似た子供っぽいあの声。
あれってやっぱり、前に夢に出てきたまんまるお月様の声だったよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます