第3話 命名!

 ボクがう〜むと悩んでいると、マクリーがリュックから身を乗り出して、ボクの頭によじ登ってきた。


「カズキ、カズキ。『マクリー隊』なんてどうでしょう?」


「ちょ、ちょっと重いってマクリー! ……それに大体、なんでアンタの名前がボクの『隊』の名前になるんだよ!?」


「だって吾輩がいないと、竜翼競艇機スカイ・ボートは飛ばないじゃないですか。真の『隊長』は我輩みたいなものです。だからここは、吾輩の名前を前面に出すべきなのです」


「……操縦するのはボクだし『隊長』もボクだよ! それにヤダよ『マクリー隊』なんて! ボクがオマケみたいじゃんか! ……ちょっと待ってよ。今、何か考えるから」


 とは言ったものの、確かにマクリーの言う事にも一理ある。


 マクリーの加護の力がなければ、竜翼競艇機スカイ・ボートは操れない。それはボクが風竜からの加護の力を使えないからだ。もしも下手にマクリーに拗ねられでもしたら、竜翼競艇機スカイ・ボートで空を飛ぶ事も、あの爽快で最高で最強で至高で究極に楽しい、雲の上のボート走行だって、できなくなってしまう恐れがある。


 ———それだけは……それだけは絶対に避けないと!

 

 仕方ない。ここはマクリーの顔も立ててあげようじゃないか。じゃないと後々うるさそうだしね。



「よし、決めたよ。……それじゃあさ、間をとって『カズキー隊』でどうかな?」


「全然間をとってないではないですか! ……カズキにとって吾輩の存在はそんなものなのですか!?」


「もう! うっさいわねぇ! だいたいなんでアンタが『隊』の名前にそんなに主張してくるんだよ! アンタは風竜の後釜だろ!? だったらもっと、デデンと構えてなよ! こんな小ちゃな『隊』の名前に拘らなくたっていいでしょうが!」


「我輩だけ除け者なんて嫌なのです! 大体カズキは我輩への愛と配慮が、ちっとも足りないのです! そんなガサツな性格だから、男の子と間違えられるのですよ!」


「……い、今、アンタはとんでもない過ちを犯してしまった様だね。……そ、そこに直れぃぃ! むきぃー!」


 頭上のマクリーをとっ捕まえようとボクが伸ばす手を、ジャンプしたり背中のリュックに回り込んだりして、マクリーはひらりひらりと身を躱す。


 こぉのチビ竜が! 意外とすばしっこいヤツめ!


「……くぬぅ! このぅ! こら! 逃げるなマクリー! そしてボクの頭から降りろ!」

 

 ボクらがわちゃわちゃやっているのを、他の戦闘班員は口をポカンと開けて眺めていた。クラウスは可笑しくて仕方がない様だ。笑いを噛み殺しながらボクらの仲裁に入ろうともしない。


「あ、あのぉ……『希竜隊』など、どうでしょう?」


 ボクの隊に配属された一人———ピンクの髪をおさげにしている戦闘班では珍しい女子班員のフェレロが、おずおずとそう進言した。


「……カズキ殿の名前には『希望』と言う意味の文字が含まれているのですよね。クラウス様より伺っています。この名前……『希竜隊』なら、マクリー殿と間をとって、ちょうどいいのではないかと思いますが……」


「それいいっすね! 自分もそれに賛成っす!」


 ボクよりも小柄で、見た目もまだあどけない、顔にはそばかすを残した少年———チェスが、前のめりに賛同した。


「自分、銀幕の中でカズキ様の戦いをこの目で見ていたんです。自分は触手に捕まっていて、何もできなくて……。カズキ様が助けてくれなかったら、俺たちどうなっていた事か。……カズキ様、とってもカッコ良かったっス! 自分、『希竜隊』に配属になって本当に嬉しいっス! これからよろしくおねシャス!」


 元気よくチェスはそう言うと、緑の短髪を深々と下げた。


「……ちょ、ちょっと待ってよ。まだ『隊』の名前が『希竜隊』に決まった訳じゃないんだからさ……」


「……『隊』の名前なんかどーでもいいだ……じゃないですか。早く決めてくださいよ」


 残りの一人、明らかに年上のパーヴァリがスキンヘッドを撫でながら、気怠そうに言い放つ。その言動はどこかクラウスを意識している様にも見えた。


 申し訳なさそうなフェレロと、目をキラキラ輝かせているチェス。そしてやや反発的なパーヴァリ。三者三様の視線を受けて、さすがのボクもたじろいだ。


 いよいよ笑いの限界点に達したのか、クラウスはうずくまって背を向けて、肩を震わせている。その横でコルネーリオが、これ見よがしにため息を吐いた。



「……もうわかったよ! 『隊』の名前は『希竜隊』って事で!」

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