第2話 航空戦闘部へようこそ

 翌日になると『モン・フェリヴィント』は、いつもと代わり映えのない日常を取り戻す。皆それぞれが自分に課せられた任務を遂行し、出来る事に全力を傾け、次の銀幕破壊に備えるためだ。

 

 早朝からボクは、CRF250Rマシンを走らせる。胸には『1つの月章ファーストムーン』の紀章を付けてマクリーをリュックに背負い、向かう先は航空戦闘部。もちろん今朝マクリーには、マーズの事は秘密にするように伝え済みだ。



 丘を登り、航空戦闘部の広い敷地に出る。滑走路を走り駐屯所に向かうと、建物の前には大勢の部員たちが並んでいた。


「よう嬢ちゃん。……ってもう『嬢ちゃん』なんて呼んじゃまずいかね。なんたって俺たちを助けてくれた英雄だからな」


「へ、え、英雄!? ちょっとそんなに持ち上げないでくれよ。いいよ、いつも通りの呼び方で。急に畏まられても、こっちが困っちゃうって」


「俺たちの英雄は謙虚だねぇ。じゃあお言葉に甘えて、いつも通り接するとするかい。……改めて、嬢ちゃん。航空戦闘部へようこそ。歓迎するぜ!」

 

 クラウスのその言葉を皮切りに、後ろに並んだ部員たちからも喝采が送られた。


「あの時は助けてくれてありがとな!」


「これからもよろしく頼むぜ!」


「何か分からない事があったら、遠慮なく声を掛けてくれ!」


 

 ここまで歓迎されると我ながら面映おもはゆい。マクリーはキョロキョロ周りを見回しながら、満更でもなさそうだ。……相変わらずの太々ふてぶてしさだ、このチビ竜め。


 ボクが頭をカキカキ照れていると、一人の青年がクラウスの隣まで歩み寄った。


「……ああ、紹介しておこう。こいつぁコルネーリオだ。戦闘班の『2つの月章セカンドムーン』でな、何かと俺の世話をしてくれる副官ってとこだ」


「世話、ではなくほとんどが尻拭いです、クラウス様」


「は! こりゃ一本取られたな! だっはははははは!」


 やや細めの体にサラリとした黒髪の、コルネーリオと呼ばれた青年は表情を変えずに吐き捨てる。クラウスは怒る事なくそれを笑い飛ばすと、後ろに並んだ部員たちからも一斉に笑声が湧き起こった。


 和やかな雰囲気の中、コルネーリオは少しも相好を崩さずに小さくため息を吐く。そしてボクに向き直った。


「このカズキが例の……。噂は私も耳にしましたが、本当に彼女が銀幕破壊の立役者なのですか?」


「ああ。お前はあの時、空賊の迎撃に向かったからな。そう疑うのも無理はないってもんだ。……だけど甘くみちゃいけねぇ。この嬢ちゃんとマクリー殿のコンビはすげぇぞ」


「……まあ、その実力が本物なら、おいおい分かる事でしょう」


 コルネーリオは切長の目で、半信半疑な眼差しをボクに向けた。


 ……確かに飛行訓練も不十分だったボクが銀幕破壊で活躍したなんて、実際に見てない者からしてみれば、信じられないのは当然だよね。


 だけどその内、ボクの飛行&ボート航行を見せてギャフンと言わせてやるんだから!


「まあ何か困った事があったら、俺か、このコルネーリオに相談するといい。本当はもう一人紹介したい奴がいたんだが、あいにく今日は非番でな。それは次の機会にするとしよう。……チェス! フェレロ! パーヴァリ!」


 クラウスの呼び掛けに、三人が後列から歩み出た。


「チェスです!」


「フェレロです」


「パーヴァリです」


 クラウスの横に並んだ三人は、それぞれ大きな声で自分の名前を告げていく。


「この三人が嬢ちゃんが受け持つ『隊』のメンバーだ。仲良くやってくれよな。……おっとそうそう。嬢ちゃんが仕切る『隊』の名前を考えといてくれ」

 

「え!? 『隊』に名前なんかつけるの?」


「そりゃそうだろう。名前がなかったら任務中なんて呼べばいいんだよ。それに作戦だって立てづらい。基本『隊』は三機ごとに行動する。規模の大きな空中戦では、『隊』がまとまり『編隊』となって、それぞれが役割を担うんだ。……ま、『隊』のメンバーは互いに背中を預けるって仲間ってヤツだからな。嬢ちゃんがしっかりまとめてくれや」


 確かに最少数の単位が『隊』ならば、呼称がないと不便だろうね。乱戦の中指揮官が、一人一人の名前なんて言ってる暇と余裕はないだろう。


 だけどボクは名前をつけるのが、大の苦手だ。マクリーの名前を付けるときだって、めっちゃ悩んだし。



 ……他の『隊』はどんな名前をつけているんだろうね?



「ねえ、ちなみにさ。クラウスさんの『隊』はなんて名前なの?」


「俺の『隊』はジャスティってんだ。……カッコいいだろう?」


 髪をかき上げながら、戯けた顔でクラウスが言う。

 


 その名前がカッコいいかどうかは別として。


 ……『隊』の名前かぁ。どうしよう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る